06
不満げな目を向けてくる彼に溜め息を付きたい衝動に駆られるが、一言一言はっきりと言葉にして問う。
「あのさ、ロー。この前私に何したか忘れたわけじゃないでしょ」
「…………………ちゅーのことか」
「覚えてたんだやっぱり」
「忘れるわけねぇ」
けろりと悪びれずに言い放つ小学生に溜息を内心ついた。
目の前でしようものならどうして溜息をつくんだと質問されるのは目に見えている。
言い合うのも無意味な気がしたのでそれ以上何も言わず身体検査の報告を聞いてから帰ってもらうことが一番の得策だと考え中に入れた。
秋休みがもうすぐやって来る気配を感じながら家に堂々と入るローを見て流れるままに生活していく術を一つ学んだ。
「ふー……で、身体検査が何だって?」
「麦茶うまい」
「…………そう。で?」
まだ夏の暑さが残る八月の下旬なので定番の麦茶を出した。
汗をかいているのはお互い同じだったからかローも急いで冷たい氷を残して飲み干した。
「お茶」
ズイッとお茶が入っていたコップを前に押し出して頼む姿に無言で麦茶のペットボトルを傾けた。
なかなか話を切り出さない様子に段々ある予感が頭に浮かぶ。
(居座る気か……)
ランドセルをテーブルの横に置いて座る姿はまさに滞在しますな格好。
エアコンを低めに設定していて涼しいのがそんなに名残惜しいのかと思ったが、彼の家には家庭電化製品がこの家より揃っていた記憶があるので居座る理由としての可能性はなくなった。
やっと身体検査の話題を切り出すや否や、誇らしげに三本の指を立てた。
「三センチ身長がのびた。あとしりょく検査で両目ともにAだった」
「三センチ、ねぇ……半年で?」
「四か月で」
「育ち盛りな時だし、ありでしょ」
「他の奴は一センチとかばっかりだったんだぞ」
嬉しそうに麦茶を飲むローにそんなに差があるのかと思ったが、やはり男子だからか身長が伸びる事を誇らしげに思うのだろうか。
リーシャは平均的身長なので高い低いの概念やコンプレックスは特にない。
麦茶をコクリと飲むとローはソファに凭(もたれ)ると一息ついた。
リーシャもソファに身体を預けるとゴソッと隣で動く気配がして横を向く。
「近い、何でくっついてくるわけ」
「ちゃんすだから」
「チャンスって……身体測定の話は終わり?」
「まだだ。おれのしりょくの話がある」
「視力は皆一緒だと思う」
「これが全くちがうわけでな」
博識な知識を披露し始めたローにリーシャは内心感心する。
本で読んだ内容を抜粋して説明する姿は小学生に思えない程だ。
[ back ] bkm