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こうして最悪な男に捕まった後は何だか可笑しな光景を目の当たりにしてしまった。
彼が取り巻きの彼女達に二人きりになりたいから邪魔をするなと言った途端まるで働きアリの様に掃けたのだ。
あんまりにも呆気ない程ローの言葉に従った彼女らに唖然となる。
ローは洗脳か何かを施したのだろうかと疑えば彼はあっさりと言う。
「アイツらは俺の"ファン"だ。つまりは手下ってとこだ」
「…………………………」
(今私が居るのって現実だよね?)
手下なんて非現実な言葉を聞かされ言葉なんて出るわけがない。
「他の奴から見ればハーレムなんだとよ」
「!……何かロー酷い」
「………………別に俺が作ったんじゃねェ。あいつらが勝手に寄ってきて媚びてきてるだけだ。俺はお前だけさえいればいいんだ」
余程リーシャの言葉が心外だったのか拗ねた様に手をギュッとどさくさに紛れて繋いでくるローに手を抜こうとするが握力で負けてしまう。
止めてと言うと手から手を離して、肩を並べるに昇格して安堵。
もし変な噂を立てられればローだって嫌な気持ちになるだろうに、何を考えているのか。
それとも、構わないとでも思っているのかと呆れる。
兎に角離れる事も出来ないままローのクラスへと極々自然に案内され当初は惑わされないと思っていたのにとんだ誤算であった。
已む無くクラスの入り口へと立つと教室の扉を開く。
ムワッと漂って来た甘い香りに目の前の屋台セットを見る。
上にはわたあめという字があった。
店番は女子がしていたようで入り口にいると彼女等が「ローくん!」と顔を赤く染めて声を掛けてきた。
それに軽く手を上げ屋台へと向かうローは、調子はどうだと声をかける。
それに至極嬉しそうに笑う青春真っ盛りの学生。
(頬染めてる。この子ローが……)
明らかに好意を向けている視線に優等生ぶっているローは罪作りな笑みを浮かべる。
きっと気付いているだろう。
「わたあめ二つくれ」
「うんっ。あ!おまけするし!私のサービス!」
「さすがにそれは悪い。ちゃんと払わせろ」
そう述べて財布を出そうとするローにリーシャは待てを言う。
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