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文化祭当日。
「これ運んで下さーい」
声と声が行き交う教室、改め『カフェ』。
リーシャはスタッフとしてせかせかと実務的に働いていた。
私語もなく、余計な行動をしないように勤めて効率化を上げる。
その方が自分らしくて良い、親しげに話しかけてくる同級生の返事に戸惑いつつも何とか切り抜けたりと疲れるが、これも変われるきっかけなのだと思うと不思議と苦にならない。
やがて交代の時間がやってきて教室の外に出るとタイミング良く来たナミ達に声をかけられた。
これから一緒に回る校内の、文化祭用のパンフレットを握り締めて三人で回る。
初めての行為に内心粗相をしてしまわないかと冷や汗をかく。
途中で彼らから後輩が今日来るのだと説明を受けた。
「そいつね、食べ物に目がないの」
「底無し腹だ」
「おまけに煩くてテンション高い奴だけど、どこか放っておけないのよね」
話を聞く限りその青年は天真爛漫らしい。
リーシャもついでに隣住んでいる中学生が文化祭に来る可能性があることを話す。
「へぇ?楽しみね」
「…………うん」
辛うじて肯定するが心の中は否定的なものだ。
ローが来てしまえば騒ぎが軽く起こる。
モンモンとしていると大きな声でナミとゾロの名前を叫ぶ麦わら帽子を被った人が手を振っていた。
噂をすれば何とやらね、と呆れた声で言うナミにあの子が例の底無し腹を持つ男の子かと観察。
見ているとすぐにこちらへやってきた子供はにこにこと元気にナミ達へと話し掛ける。
「ん?お前は誰だ?」
「この子はリーシャ、この煩いのがルフィよ」
紹介されてふーんと言うルフィは次の瞬間にはニカッと笑いよろしくな!とハツラツと言う。
それに押されながらはい……と言うとルフィも加わり四人で移動する。
フランクフルト売り場で何個買うかをルフィと言い合う三人を眺めていると耳にきゃああ!!という喜びの悲鳴が聞こえて来て背筋にありありと、とある予感に汗を流す。
(このタイミングで……)
そこには海が別れたように、端に女子が待機していて真ん中の廊下を颯爽と歩く影が見えた。
ナミ達は言い合いを止めて何の騒ぎだろうと同じくそこを見る。
「なにあれ!?」
「誰か有名人でも来たんだろ」
「フランクフルトサービスしろよー!」
最後のルフィの声にずっこけそうになるが、そこを見ながらユルリと後ろへ後退してルフィを見るふりをして後ろを向く。
こんなに人が行き交っている中で見つけるのは難しいと踏んだリーシャは、やはり目立っているじゃないかと思いその黄色い声が目の前まで迫っているのを確認する。
きゃあきゃあと煩わしい声に耳を塞ぎたくなりながら通り過ぎるのを待っていると周りに居る人達がざわりと更に騒がしくなった。
そして、その時ねっとりとした視線を感じ悪寒に身体が硬直。
眉を潜めてその不快さに首を傾げていると肩にずっしりとくるものが触れた。
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