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修学旅行に行った後のローはもうべったりとリーシャに付いて周り、行く前よりもずっと粘着テープのように感じた。
腰に張り付きくん、と匂いを嗅ぐので殴ったりしたのだが全く効き目はない。
やれやれとこちらの手に負えない程纏まり付かれ、離れたのは二日目の朝。
ベポにもあまり構わなかったからか犬から甘えてきてそれを抱き上げるのを見届け、やっと粘着時間が終わった事に安堵した。
と、安心している自分にも少しだけイベントがあり、ついに中学三年へと進級したのだ。
そして、これは驚いた事件で……これを事件として認定するべきか悩んだのだが−−。


「あの」


名字を呼ばれ振り返ると見たことが少しくらいある、すれ違う程度の男子が頬を染めてこちらを見ていた。
一応今は帰り道だから人もいなくて二人だけの空間となっている。
意を決した様子の男子は顔を上げて口を開く。


「い、今、つ、付き合っているひ」

「リーシャ、見つけた」


男子の声を遮り現れた子供に二人揃って後ろを見る。
きょとんとする男子、又は小学生の登場に彼は「しょ、小学生……?」と戸惑っていた。
その小学生のローはランドセルを抱え直すとリーシャの傍に歩いて来て何故か手を握ってきたので内心眉をひそめる。
何か言い掛けた同じ中学の男子はそれを見て、あろうことかローに待って、と言う。


「オニーチャン、ぼくとせんそうをしたいの?」


にっこりと笑ったローの台詞に男子はポカンとした顔をし口を閉じてしまう。
それにローは行こうと手を引いてくるので已む無く歩き出し、そろっと後ろを振り返っても男子はそこに立ち尽くしていた。
暫く歩き家の前まで来ると彼は手をパッと呆気なく離したので先程の気になった言葉について聞く。


「戦争ってどういう意味?」

「おとこにはどくだん場があるって意味だ」

「独壇場?意味不明……」


顔をしかめるが、意味の分からない事にそう投げつけてもローは何も言わなかった。
別に知らなくても生きていける言葉というのは何となく分かったので聞く気はもうない。
勝手に戦争でもやってればいいが小学生と中学生では些かハンデがあるので厄介事だけは止めて、とだけ言っておいた。


「おれの事をしんぱいしてくれてんのか」

「何?は……火の粉被りたくないだけ」


止めてくれと首を振ってもローの喜びに満ちた表情が変わることはなかった。



それから数日後、とても悔しい事に風邪を引いた。
風邪薬を飲んで眠り目が覚めた頃には夕方で、インターホンによって起き上がる羽目になる。
ローだろうかと思いながらインターホンのモニターを見ると先日リーシャを呼び止め何か伝えようとした男子だった。
まさかストーカーされたのかと目をすがめるが今日のプリントを届けに来たと言われ、なんだと納得。
扉を開け門越しにありがとうと言いつつ受け取ろうとすると、いくつか大切なお知らせがあってプリント毎に説明する必要があると慌てたように言われる。


「その、あ、上がっても、いいかな?寒くて……」

「別に明日先生から聞くのでそこまでしてもらわなくても大丈夫です」


ローによる、毎日のように下心ありきの行動を見ているからか、この男子の好意に薄々気付いていた。
寒さによるものでない頬の赤みを見つけてしまった時からこうなる予感はひしひしと感じたが、だからといって何も告げられていないのに拒否するのも、と思えやはり構わないと言って家の中へ入れる。
まさか中学生が襲う真似をするとも思えないし、ベポもいるからと居間へ通す。
プリントに必要な事項を記入し説明を聞いていると突然隣にいた男子が静かになり首を傾げた。


「あの、お、俺、少し前から……」

「おかし持ってきた、上がるぞ」


スタスタと居間の扉から入ってきたローが二人の前を通り過ぎる。
なんだが狙っていないかと勘ぐってしまうタイミングに男子はずっこけた様子で「ええええ」と声を発した。


(二度目となると……か)


ローは小学生ながらに狡猾だから狙っていない訳がない。
確信犯を見ると二人が座る間に近寄り間を無理矢理押し退けて、そしてリーシャの膝の上に座る。
重いし風邪気味なのにしんどいと訴えかけつつ退かそうとしてみるが、へばり付いて無理そうだ。
暫し我慢しようと思った時、不意にローが隣で呆然としている同級生を見てにこりと笑う。


「あれ?この前のオニーチャン。ぼくとせんそうしに来たの?」

「っ!……小学生に負けるつもりはない」

「え」

(えー、中学生が小学生の喧嘩買うとか)

「あの、申し訳ないんだけど、この子お隣の子で何かあったら困るからそういうの止めて欲しいんですけど」


あくまで自分の身が第一で、お見舞い兼プリントを届けに来た同級生とローの間に何かあって、ローが怪我をしたらこちらの責任になりかねない。
そんなの傍迷惑だし、何より小学生をまともに相手にする同級生がダメダメだろう。
はっきり物申しておこうと進言した途端、同級生の男子がショックを受けた顔をしてごめん、と謝る。
分かってくれたのならいいですと言うと、その男子は立ち上がりもう帰るというので見送った。
しょげた空気をどよんと漂わせる彼は影を背負い帰って行った。


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