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ある日の午後四時半を過ぎた時、前にあった、喧嘩したと言って帰ってきた現状を彷彿とさせる表情を浮かべたローが窓から音もなく入ってきた。
「どっから入ってきてる、のっ」
「まどから」
「わかってるし……じゃなくてっ」
「今日はやな日だった」
(話しきーてない)
全く最近のローは本当にリーシャのことを年上として見ていない。
端から期待もしていないが。
彼がムスッと目元を相変わらず隈もろとも細めて愚痴り始めた。
内容をまとめると「同じクラスの男子が女子のスカートをめくり始めた」らしい。
何を今更と溜息をつく。
小学生ならスカートめくりをする人間はクラスに一人や二人は居ると思うし、現に昔はリーシャのクラスにも確かに居た。
それが解せない様子の彼はご立腹なようだ。
「げれつだ。そくたんにんがちゅーいするべきもんだいだ」
「確かに……って言ってもなくなる可能性はどうかな」
「それでも見てるこっちはとばっちりだ」
「何がとばっちり」
「女子が男子なんてさいてーだって言う」
「ふーん」
「…………………リーシャも」
ローは蚊の鳴く声でぽそりと問うてくる。
「ん?」
「リーシャも、男は………………嫌いか?」
「はっ?………………」
突拍子もない予想外な質問に思わず間抜けな返事をしてしまい、気を取り直して答える。
「理由もなしに……嫌いにならない」
「ほんとーか」
「簡単に人を嫌いになれる程私は賢くないし、仮に嫌いになっても時間が経って嫌いになった気持ちが薄れることもある」
あくまでもリーシャの理論だが、それでも嫌いという言葉は意味がたくさんある。
一つだけということはないのだ。
大人みたいに考える自分に少し嫌になり、もう少し中学生らしい考え方が出来ればいいのにと溜息をつく。
「それでこそ、おれのリーシャだ」
「所有物になった覚えはない」
生意気な発言に釘を刺せどローは全く耳に入っていないようだった。
いつものことなので放置して勉強に取り掛かる。
彼も人事に振り回されるような人間なのだと密かに考え、それを嫌そうに語る口調は子供だな、とクスリと可笑しく思って笑った。
「初ってやつか」
本人は絶対に違うと言うのだろうと想像出来た。
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