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「むりしてさんかしなくていい。いやなおもいさせたから」

「嫌な思い?私が?」



いつ嫌だと口にしたのか覚えがない。
確かに強制的にここへ来たのではなく、今回は八割程自分の意志で行動した。
悔いもなければ後悔もしていない。



「ほご者せつめい会……ぜったいきゅーくつだった」

「………………ローが気にすることじゃない」

「きにする」



リーシャが言い返しても同じ言葉を繰り返すだろうローに溜息をついた。
なんというか、彼はとても観察力が鋭い。
それが原因で今、子供に複雑な心境で気を揉ませていることに自分が不甲斐なく思う。
リーシャは滅多に人に対して何かを感じる事は少ないと自負していて、でもこういう風に悩ませてしまったことは遺憾(いかん)だ。
まだ知り合って半年も満たないトラファルガー・ローという人間にこうも感情が揺さ振られる感覚に戸惑った。
そうこう話し込んでいるうちに三者面談の時間が近付き二人は校舎へ入った。



「自由参加に来ていただけて私も嬉しかったです。ローくんも喜んでいますし」

「うん。‘ぼく’すごく嬉しいっ」

「……………………そうですか」

「これが成績表でして」



スムーズに行われた面談は相変わらず予想通りのローが仮面を被ったお芝居空間になっていた。
切り替わりのスイッチは一体どこにあるのやら。
呆れた顔をこっそり浮かべて成績表を何気ない仕草で見ると思わず目を見開く。



「ぜ、全部……四と……五?」



ズラッと列ぶ数字は信じられないような高数字だ。
目をすぼめてよく見ても変わらず、隣にいるローと成績表を見比べた。
天使の笑みを神々しく浮かべたローと目が合う。
凄いだろ、と身体全体が言っているようだ。
隙がなさすぎる成績に再度机へ視線を戻す。
担任は特に問題もなくローは良い子だと褒めちぎっていた。
内心「かわいそうな先生」だと毎回思うことを浮かべながら早く面談が終わるように祈った。






永遠の様にも感じられる面談が終わった五分後。
リーシャとローは帰宅の道を歩いていた。
自転車があるが、彼が徒歩を強制する上に自転車の取っ手を掴んで離さないので諦めて歩いている。
二人乗りをしようと持ち掛けてきたりもしたが怪我をした時の事を考えて即却下した。
彼は何故か機嫌が良さそうに歩くからか、周りから「今帰り?」と地元の人間に話し掛けられていた。


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