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02


「はぁー……疲れた」

家の扉を閉めるとすぐに鞄を放ってソファへダイブした。
ふかふかなソファは父親が珍しくこだわったものなので弾力性があってリーシャも気に入っている。

「マッサージしてやる。きをらくにしろ」

「いや、ていうか……何でいんの」

「すぐにおわる」

「聞いてた?」

伸び伸びと寛いでいると許した覚えがない侵入者が目の前にいた。
本人は何食わぬ顔でマッサージしようと背中に跨がってくる。

「誰も頼んで、ないっ」

「しんにゅうけいろはそこのまどから」

「侵入……窓、勝手に空けたってこと?」

「わろうかかんがえた……でもこっちの方がいいと思ってな」

「えー……てか、不審者が入ってきたらどーすんの」

「………………けす」

(消す?)

全く最近の子供は物騒な単語を使う。
ただでさえ疲労しているのにローが来て更に脱力感を感じた。
背中から降ろすのも面倒だが、意外にマッサージが気持ち良くてうとうとと眠気が漂う。
現実と眠りの間をさ迷っていると上から声が問い掛けてきた。

「ねたらいい。かぎはちゃんとしめた」

「そー……」

そう、と相槌を打ったつもりが既に目を開けられなくなり睡魔に導かれるまま瞼を閉じたので、その後にローが呟いた声が聞こえることはなかった。

「これで一日じゅうおまえとふたりっきりだ」

小さな子供は口元を妖しく吊り上げ、歓喜に満ちた言葉をそっと彼女の耳元で囁いた。








今日は学生にとって貴重な休日である土曜日。
おまけに今月は三連休という祝日付き。
これはゴロゴロと過ごすには打ってつけの時間だと早速二度寝を決め込む。
が、ガタンッという不審な音に閉じた目が自然と開く。

「……泥棒?」

いやまさかと一瞬考えた可能性を否定する。
こんな学生一人しかいない家に入る物好きな人間なんていない。

「きたぞ、リーシャ」

「いたよ此処に」

物好きな子供が。

「また窓から侵入した?」

「ああ。いんたーほんをおそうとしたが……おまえがねてるかのうせいをこうりょしたら窓からというけつろんにたっした」

「よくまぁ難しい言葉を知ってる……普通に押したら」

「あけてくれんのか」

「ない、開けない」

「なんでだ」

「今日は休日だから」

「休日はどこかに行く為にあるんだ」

「違う違う。疲れた身体を労る為にあるだけ。お休み、ロー」

「やっと名前呼んだな」

「ローくんって呼んでほしい?」

「ローでいい。対等なかんけいみたいでピッタリだ」

「……………お母さん達も休みでしょ、早く自分の家に帰れば」

「どっちもきゅーかんが来たから朝からいない」

「ふーん……え?」

意味が分からないと顔に出てたたのかローは両親について話し出した。
父親は医者で母親は看護師らしい。
知らなかった、母親は夜遅い仕事をしているという認識しかしていなかった為、まさか両親が医療の仕事をしているとは。

「成る程……寂しいから私の家に来たわけだ」

「ああ、リーシャに会えるから」

「………………素直でいいけど」

今のは、かなり来た。
直接心臓に言葉が刺さった錯覚がしてドキリとする。
錯覚だ、錯覚と心を落ち着かせる、子供は人に懐きやすいだけだから――と。
眠気ですらなくなった事に気がついて二度寝をするのを諦めた。
ベッドから起き上がると朝ご飯と昼ご飯の間の起床にお腹がすくのを感じて少し面倒だが何か作ろうと首をもたげる。
後ろからローが付いてくる足音がしたのでこのまま付いてくるのだろうと放っておく。
パジャマのままだがたいして恥ずかしがるような年齢だと思わせる相手がいないと判断して着替えずに下へ降りる。
自分の部屋が二階にあるので恐らくローは一階の窓から侵入したのだろう。
スリッパを履いてキッチンに立つと向かいにローが椅子を動かしてきたので無意味だろうが駄目だと言う。
作る所を延々と視線を反らさずに見続ける様が想像出来る。

「へるもんじゃねーだろ」

「絶対に何かが減る」

「おまえはあぶないから……おれが見てやってるだけだ」

「危ないって何が」

「ほうちょーで手を切るとかやけどしたらすぐにちりょうしてやれねー」

「治療……ね。」

いかにも両親が医者と看護師なだけある。
が、心配し過ぎやしないかと思ったが、これ以上追及しても避けられるだけかと仕方なく料理を始めた。
無難に卵焼きと食パンと醤油で食べるか。
それともキッチンに見えるカップ麺か、冷蔵庫にある冷凍食品。




「おれはみそ汁が飲みたい」

「あ、昨日の残りの……って、何でローが選んで」

「まだめし食ってない」

「ご飯って言ったら?めしなんて言葉はまだ早い」


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