28
今日もまた隣人の突発的な発言から一日が始まる。
「じてんしゃ買った」
「……………おやすみ」
「まて、ねるな。まだおわってねー」
「運動会の振替休日があるからって私には関係ない。学校ある。だから嫌」
眠いので単語が主になっているが最早どうでもいい。
今は布団の中で眠りたいのだと目で訴える。
すると、ローは無言になり向こうへ行った。
というか、どうやって入って――窓があった、そういえば。
合い鍵などなくても簡単に侵入出来る。
どうやって塞いでしまおうか。
考えられるような脳にまだなっていないから考えられない。
直にドタバタと足音が階段を上がってきてそのまま自室の扉の前で止む。
バタンッと扉が音を立てるが、寝る邪魔さえされなければ眠るので布団を被って音を遮断する。
「ワン!」
「ベポも起きろって」
「…………散歩行けば?」
「リーシャといかないといみがない。きゅうじつだからでかけられるだろ」
「い、や」
断固拒否だ。
ペットシーツもあるし、出したければ出せばいい。
元はローが飼いたいと言っていたのだし。
頑なに布団から出ないリーシャに彼はベポと共に乗っかかってきた。
「重い」
「すくなくとも、リーシャよりはかるい」
「あー、そうですね……退いて」
本当に寝たいからローに付き合えない。
起きたとしても付き合うつもりはないが。
ローもまた降りる気はないようで揺すりかけてくる。
「じてんしゃに乗るれんしゅーにつきあえ」
「ローなら一人で頑張れるって信じてる」
「そんなことばじゃだまされねーからな」
(そこは騙されといて欲しい)
頭上にある時計を見てみれば八時四六分だった。
ローからしてみれば十分待ったのだろう。
既に先程からのやり取りで目が醒めて眠るに眠れなくなったのでムクッと起き上がる。
目の前に跨がる一人と一匹に期待した眼差しを向けられ半眼になると暫し考えて口を開いた。
「朝ご飯食べるから退いて」
そう言うとローはベポを担いでベッドの上から飛ぶように着地した。
若いことだと、まだ中学生のリーシャは思いながら階段に向かう。
二人分の足音と一匹のパタパタという音を引き連れリビングへ行くと食パンを二枚出してオーブントースターの中に入れ、ジジジ――というタイマー音を後ろで聞きながら牛乳をコップに注いだ。
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