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お弁当を前にお箸やお茶を汲むとローの目の前に置く。
微かに口元が弧を描いて、彼はパクリと海老の天ぷらを食べた。



「何でハチマキしかしてないの」

「ぼうしのひもをちぎったから」

「……………契れたんじゃなくて?」

「ぶっちぎった。ダサかったから」

「先生には」

「ちぎれた。ふりょのじこでってことにした」



ワイルド過ぎやしないかと小学生の顔を見つめる。
普通、故意に帽子の紐を契らない。
更に修復不可能なように帽子も無くした事にしたらしい。



(ありえな…………くないか。奇行は今更か)



男子は普通かっけ〜!とか言って、帽子を被りだかるものではないのか。
リーシャの想像が豊か過ぎるのか、皆そうなのか――ないな。
ローが秀でているだけのように思えるし、元々の性格がこうなだけだろう。
それにしても裏と表に差があり過ぎる。
引き攣りかける口元をなんとか平常に戻して自分も昼食に手を付けた。
次のプログラムは『親子競技』らしい。



「リーシャが出てくれるだろ」

「やだし。私親じゃない。それに反則じゃないの?」

「そこはだいじょーぶだ」



先生にも確認を取ったらしい。
既に面識のあるローのクラスの担任の顔を思い浮かべて溜息を付いた。
親に交じってスタートラインに立つ自分を想像してみて――とんでもないとやはり拒否をする。
絶対に目立つ。



「おれにさくがある」

「策?……計画的ですね」



目をすがめて見遣れば「まかせておけ」とあの特徴的な笑みで言われた。




そして、已む無く出場する事になったリーシャは先程の、ローの子供らしい言葉を思い出す。



『おれだけひとりではしるのか』

『別に出る必要もないでしょ。参加型なんだし』

『もうエントリーした。それに、おれはおまえとさんかしたくて今日まで頑張ってきたんだぞ』

『……私には関係な』

『おれをみすてるのか。おまえもおれを……』

『っ…………わかった』



と、言うわけだ。
あんな風に寂しげな目を向けられて、逸らせなかった自分に腹を括るしかないと言い聞かせる。
今だけ、この競技だけ出ればもうお役御免なのだ。
無意識に力む眉間を見られないようにこっそり周りを見回すと、やはり親子達がちらりちらりとリーシャを見ていた。
やっぱり目立っているじゃないかと隣で足をタオルで縛るローに横目で訴える。


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