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十時になるとパレードの開始を知らせる音楽が運動場全体に響き渡る。
既に居なくなったローとのご褒美の約束をしてしまった自分が彼に対してどんどん甘くなっているような気がした。
唇を奪われた事はきっと戯れの一つだと自己処理したが、やはりその時のしてやられた感は忘れ難い。
そうして考えに浸っていると小学生が続々と紙で出来たお花をあしらったアーチを潜って入ってきた。
アーチの横には『北海小学校』と書かれた看板があり、中学は北中になるのかとローの大人になった姿を自然と想像してしまう。



(……………そのまま大きくなるに決まってる)



今の性格のまま成長すれば見事に俺様になるだろう。
ビデオカメラを用意するとタイミング良くローの組が登場した。
ローは苗字順らしく真ん中に居たのでカメラを向ける。
こちらに早くも気付いたローはリーシャと居る時と違って天使の微笑みを浮かべた。
思わず頬が引きずる。
どれ程役者なのかと思わずカメラを降ろしたくなったが、親から頼まれているので今更辞退出来ない。
そもそも拒否権を与えられた事がないと遠い目をする。
カメラ越しから見ても周りの女子達がローを熱い目で見ているのは一目瞭然だった。
今時の小学生は――と既に疲れ切った心はもうどんなことがあっても驚くことはあるまい。
女子達にも例外なく天使の微笑みを絶やさないローによく疲れないなと、ここまで来れば何となく感心してしまう。



(あれ?……帽子がない)



赤白帽と呼ばれる帽子をただ一人被っていないことに気付き疑問に思った。
担任も誰も注意しないので何故だろうと思ったが、リーシャの気にするところではないだろう。




やっと運動会の種目が始まり、一心にカメラを動かす。
ローが言っていた百メートル走は一番初めにあるので見物だ。
数回のスタートからゴールをするまでの小学校の姿を見てようやく目当ての人間の番に回る。
その瞬間、大人の声援ですら負けてしまう程の黄色い声がローを覆う。



「トラファルガーくんがんばってー!」

「トラファルガー、いけぇ!」

「ローくぅぅん!」

「きゃああ〜!」

「がんばれー!」



男子の声援もあってクラスの人気者などというレベルではない。
明らかに上級生の声も交じっているので呆気に取られる。
その声に応えるようにローは位置につき、真っ直ぐゴールを見詰めた。


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