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「いま……」

「聞き間違いでしょ」

「犬のなき声がした」

「しつこい。早く帰って」



ギクリと内心冷や汗をかきながらローを追い返そうとするが、向こうも引き下がらない。
ついに手が痺れてきた時、玄関の門が開いて子供の侵入を許してしまう。
リーシャはため息をつくと扉の前で取っ手を掴むローを退かした。



「壊れるからやめて……今……開ける」



ローが素直に取っ手から手を離したので鍵を差し込み扉を開けた。
ガチャリと音を立てて一番初めに見えたのは白色。



「ワン!」

「ベポッ」

「昨日から殆ど鳴かなかったのに、今になってなんで吠えるわけ……はぁ」



歓喜に尻尾を振るロー命名の『ベポ』に今までの脱力感と緊張が解放された。
しかし、今回の件がバレてしまったことが一番の厄介事だ。



「リーシャ……おれのねがいをかなえてくれたんだな」

「何?意味わかんない。私はただ子犬が捨てられてたから仕方なく家に連れてきただけだし」



言ってから後悔した。
まるで照れ隠しみたいな言い訳過ぎる。
ベポを抱きしめながらジッとリーシャの顔を見つめるローから顔を背けると何もなかったように玄関に上がった。
付いてくるのは二つの足音。
振り向く事はせず鞄を自室に置いて制服から着替えて下に下りると、ベポを撫でて上機嫌に口元を上げるローがいた。
いつまで居座るのかと質問するには憚(はばか)られる空気だったので放っておく。
リーシャがこれから悩む事は犬をどうするかだ。
仕方なく連れ帰ったが、これからどうするかはまだ決めていなかった。



「リーシャ」

「…………何」

「ドックフードはうちにたくさんあるからごはんのひようはかからない」

「犬が居ないのにドックフード買ったの?」

「がっこーがえりにあげてた」

「へー」

「さんぽもおれがぜんぶする」

「勝手にしたら」

「あいかぎは作ってあるからしんぱいねー」

「……………………は?」



今、確かに可笑しい言葉が聞こえ、もう一度尋ねたが二度目に答えることはなく自然に話をごまかされた。
しかも「そらみみだろ」と軽く鼻で笑われる始末。
理解するまでもなくリーシャが今しなければいけない事が決まった。



「ロー」

「なんだ」



滅多に名前を呼ばないからか、嬉しそうに返事をする相手に笑みを向けた。


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