07
「日々おまえを見ていなくちゃならねーから目を悪くするわけにはいかねぇ」
「…………………お疲れ様」
最後を締め括るはずの言葉が残念でならない事に失笑。
「おれにはな、もくひょーがあるんだ」
「へーっ」
「なんだかわかるか?」
「知らない」
聞いてて得はあるのか分からない話に適当に相槌をうっていると彼はいきなり真面目な表情をしてこう言い切った。
「いけめんになることだ」
「………………………あ、ごめん。今のよく聞こえなかった。もう一回」
「いけめんに」
「あ、あーっ、もーわかったから言わなくていいっ」
小学生が発言するには現実的ではない。
というかイケメンの意味をちゃんと理解しているのだろうか。
「だれからもモテるいけめんじゃない」
「それイケメンって評価されたかったら矛盾するけどね」
イケメンはイケてるメンズの事だ。
それを誰からも評価される必要がないと思っているのならイケメンの呼び名はなかなか付かないと思う。
ローのちんぷんかんぷんな言葉にため息をつかざるおえない気持ちになると麦茶を飲む。
「おまえにだけモテたいから、ほかのやつからのひょーかなんていらない」
「っ!………………ゴホッ……………器官に、入っ、た……」
突然、予想外な発言をかますローに思わず喉を詰まらせた。
彼は無表情で背中を摩る。
文句の一つぐらいは考えたが、その行動に免じて止めておいた。
そんなたわいもない会話をしている間に時計が五時を指している事に気付く。
「もう五時だし帰って。お母さんが心配するから」
「はっ」
(普通鼻で笑わないし……普通を求めても無駄か)
心底親を馬鹿にした表情であざ笑ったローに渇いた感情を感じる。
「五時にかえんのはいい子だけだ」
「よくわかってるじゃん……これとそれは別だけど」
なかなかソファから降りないローを玄関に追いやると「じゃーね」と言って扉を閉めた。
これくらいしなければいつまでもこの家にいるし、何より親がちゃんとご飯を作って待っているのだ。
(私のご飯なんてローのお母さんより下手だし)
一人分の食事を作る準備をすると、一つしか明かりがついていないキッチンの冷蔵庫を開けた。
トントンとまな板の切る音はこれからも自分以外の耳に響く事はないのだろう。
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