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試着する本人の承諾を得ずに店員はリーシャを試着室に入れられ、これもローだからこそなせる技なのだろうかとそんなことを考えている間に試着室の外側からドレスが手渡された。
これは試着しろと言うことだろうか。
リーシャは仕方ないと諦め着替えることにした。
ローは一度こうと決めたらなかなか曲げない人間なのだ。
もう慣れたことなのでリーシャも成り行きに任せて
私服を脱ぎ渡されたドレスを着た。
そして、それを伝えると試着室のドアが開き、すぐ前にローが足を組んで用意されたのだろう椅子に座っていた。



「やっぱりそれが一番合うな」

「これ、私と同じ髪の色だよね?」



ドレスの色はリーシャの髪色の薄緑色。
ローに指摘された手持ちのドレスはレモン色だった。



「あんな黄色はお前には似合わない」

「う、はっきり言うよね……」



確かにリーシャも違和感を感じていた色だったし、自分の髪色とは相性が悪いとは思っていたがそれを言われ苦いため息をつく。



「……だ」

「――え?」



あまりよく聞き取れなかったのでローに今一度尋ねたが答えてくれなかった為諦める。



「これを買う」



リーシャではなく店員に向けられた言葉。
慌ててローを引き止める。



「親子持ちだ」

「そういう意味じゃなくて」

「お前はもっと欲を出せ」


「私は今のままで十分だよ」

「いくらだ」



これ以上話していても進まないと判断されたのかローが店員と交渉し始めた。



「もう……」



それを見て仕方ないと思うしかなくローも引く様子が全くないので自分が折れるしか道がないのだ。
リーシャはひっそりと嘆息するのだった。










ローがドレスを購入した後はそのまま家に帰り玄関に入ると彼に呼び止められドレスのお店に行く前に立ち寄った宝石店で買ったと思われる小さな袋を差し出された。
それを受けとるとローに「開けてみろ」と言われ中身を出す。



「これ……ネックレス?」


「タスマリンだ。お前と俺の誕生石」

「くれるの?高かったでしょ?」

「お前にやる為に買ったんだ。値段は関係ねェ」


もの凄く心をときめかせてくれる台詞にリーシャは感動した。



「ローくん、私今凄く嬉しい」



涙ぐむとローは首を傾げた。



「なんでなくんだ」

「家族思いなローくんに感動してるんだよ……」

「家族思い……」



リーシャの言葉を遠く呟くように茫然とするロー。



「ありがとうローくん。大事にするね」

「あァ」



今だ物思いにふけていたローはからっぽのような返事をしたように感じた。
しかし、今のリーシャには気付くような感の良さはない。



(指輪とネックレス、大事にしなきゃ)



三年前にプレゼントとしてローがくれた指輪や今貰ったネックレスなどリーシャの身につけるモノはローからの贈り物ばかりで元々あまり物を買わないから貰ったものくらいしか手持ちはない。
たが、大切な人に貰ったもの程大切にしたくなる。
だから、リーシャはずっと生涯貰ったものを身につけているつもりでいた。










ローにドレスや宝石店に連れられた翌日、年に一度行われるお祭り――ノース記念祭が開かれた。
何の記念日だと聞いたところ、ローには「よくわからない」と返された。
誰もかれも何人に問うても同じであった。
とにかく楽しめればいいらしい。



(世界政府が伏せたがってる情報を知らないのは当然か……)



記念祭と言われてもピンとこない理由はなんとなく理解できた。
何の情報も入らない民間人が何かが始まった日など知ることなどできないわけだ。
世界政府が教えないなら、知る必要はない。
それが常識で暗黙の了解。
でなければ、危険なのだ。



「最悪だ」

「あ、どうしたの?」



軽く装飾が施された黒いスーツ姿にネクタイという正装のローが少し乱れた髪を直しながら人混みを掻き分けてやってきた。
ダンスを楽しむ祭であるノース記念祭は夜に、町にある今はアリシアの父が所有者である宮殿の創りが見事な建物で行われ町の住民達が揃いに揃ってここへ集まるのだ。
そして、誰とでもダンスをする自由なパーティーなるものが始まった。
絶対参加ではないが、ジェイドに代わって挨拶や交流をするために二人は参加する。
ジェイド本人は気にしなくてもいいと言っているのだが、ローよりもリーシャが張り切るのだ。



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