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「あ、今日は買い物に行く日だった」
「町に行くのかい」
「はい。安くしてもらわないと」
ジェイドと話しているうちに、ふと思い出したリーシャは用意をするために鞄と上着を羽織る。
「ちょっと行ってきます」
「あァ。気をつけて」
ジェイドに見送られリーシャは玄関を出た。
町に着くと一番に八百屋に向かったえば店先に立つ女性がいた。
「こんにちは」
「まぁリーシャちゃん!今日も綺麗だこと!」
「ありがとうございます」
店の女店主といつものように軽く挨拶を交わす。
「これ、ください」
「はいよ」
買い物リストが記入している紙切れを渡す。
このお店もリーシャがこの世界に来た時からの馴染みの店だ。
「リーシャちゃん、本当に別嬪になったねぇ」
「あんまりお世辞を言われると照れますよ……」
前々からよく綺麗になったとか別嬪だとか、色んな人に言われるようになった。
お世辞だとわかってはいるが毎回繰り返されるのは気恥ずかしい。
「お世辞なんかじゃないさ。どうだい、うちの息子と――」
「リーシャ」
八百屋の女店主の言葉を聞き終わる前に声が聞こえ振り返ると本を持ったローが立っていた。
「ローくん……!」
リーシャは驚きにローを見ると彼は真隣まで歩いてきた。
「本屋の帰り?」
「まァな。こんにちは八百屋のおばさん」
「あらローくん。貴方も変わらず色男ねぇ」
「そんなことないですよ」
ローはにこやかに笑みを浮かべる。
彼は大人に対して好青年として振る舞っていて、その態度にはリーシャも苦笑ものだ。
「はいよリーシャちゃん」
「ありがとうございます」
女店主から野菜が入った紙袋を受け取るとローは行くか、と声をかけてきた。
「まだ行くとこあるから、もう少し待って」
「何を買うんだ」
「お菓子の材料」
「今度は何を作るつもりだ?」
「ふふ……内緒」
「……明日にはわかるしな」
ローはまた苦笑を浮かべ、リーシャは微笑んだ。
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