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「あ、染みないやつね」

「贅沢言うな」



ローが消毒液を付ける前にリーシャはすかさず言う。
飽きれながらも違う消毒液に変えてくれるローにリーシャは笑って膝を差し出した。



「できたぞ」

「ありがとう」

「じゃあ私は書斎に戻るよ」



二人を見ていたジェイドは手当てが終わると自室へと戻った。



「上手くなったよね」

「当たり前だ」



ジェイドがいなくなった空間で一息つくリーシャにローがソファへ移動するように催促する。



「何か入れてやる」

「珍しいね……怪我の功名?」

「まァな」



リーシャは笑いながらソファへ座る。



「じゃあミルクで」

「わかった。ついでに昼食も作ってくる」



ローはキッチンへとリーシャを残し消える。
しばらく待っているとローが皿を手に持ちやってきた。
どうやら出来たようだ。




「日に日に上手くなっていくね」

「リーシャを追い越しちまうかもな」

「それは困るな」



冗談めかして話すローは最近メキメキと料理の腕が上がってきている。
リーシャも負けていられない。



「今日はオムライス?」

「前にお前が作ったことを思い出した」

「そんなこともあったね」




ふんわりと半熟卵にケチャップがかかっているオムライス。
懐かしい気もする。
何度か作ったが、ローに初めてオムライスを作った時の事を思い出したからかもしれない。
あの時も、今も変わらずリーシャは記憶喪失のままという人間として思われている。
それは違う世界から来たという事実を隠す為のやむを得ない嘘。
たった十歳であんなに手際よくオムライスなど普通は作れない。
リーシャは今でも十九歳の記憶を持っている。



「いただきます」

「お変わりもあるからな」




ローの言葉を聞きながらスプーンを口に運ぶ。




「美味しい」

「当然だ」



そう言いつつも嬉しそうに口元を微かに上げたローにリーシャは内心笑みを浮かべた。



(素直じゃないなぁ)



思いつつもリーシャはその態度に愛しさを感じた。
俗に言うツンデレ。
それは自分にしかわからない彼の言葉に対してだ。
オムライスを食べ終わるとローは上着を着た。



「どこか行くの?」

「ちょっとな」



軽く返事を返したローの言葉にピンと反応する。



「もしかして、デート?」


「はァ?」



彼もなんだかんだ言ってもう十五だ。
色恋沙汰の一つや二つあってもおかしくないと感じたリーシャ。
しかし、予想とは違い、眉を下げ怪訝にこちらを見てくるロー。



「だって、ローくんモテるでしょ?この間だって手紙貰ってたし」

「知ってたのか」

「毎年の話しでしょ……」




リーシャは苦笑する。
ローに手紙が毎年毎年何通もやってきていて、さすがに知らないフリもできずそんなラブレターを、これまた同じくローが焚火のまき代わりにする。
その光景を目にする度世の中の恋する少女達の叫び声が聞こえてくるような気がした。
いや、実際本当に断末魔のような叫び声が聞こえたことは何度かあり確かにリーシャの耳に聞こえた。



「アリシアちゃんからも来てるね」

「本当にな。毎日毎日、飽きずに」



ローは悪態をつく。
本当に毎日一日も欠かさずにアリシアから熱烈なるラブレターが届くのだが内容は言わずもがな。




「本屋に行くだけだ」

「そっか。行ってらっしゃい」

「あァ」



リーシャの勘違いを訂正し彼は家を出ていった。
彼は無類の読書家でそのジャンルは様々。
よく読むのは医学書であるからローのお金は本によってほとんどが使われているのだ。



「ローはまた本屋かい」


「そうみたいですね」



ジェイドが部屋に入ってきてリーシャに尋ねた。
それはわかっているような口調で笑いながら頷いた。



「最近は本ばかり読んでいる」

「悪いことではないですけど、たまには外で遊んでほしい、ですか?」

「そうだね」



ジェイドが言いたいことに察しがつきリーシャは苦笑を漏らす。



「彼女がいるとまた別かもしれませんね」

「おや、リーシャちゃんはどうだい?」

「え?」

「ローは駄目かな?」

「そんな。ローくんとは家族なんですよ……」



ジェイドの思わぬ言葉にびっくりしながらも同時になぜそんなことを聞かれるのかわからなかった。



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