64
テッドがそう告げると男の子二人は何事もなかったかのように帰っていった。
リーシャが二人を目で見送ると次はテッド本人を見る。
一体、どんな用件で自分をここへ来させたのだろう?
テッドとは一回しか会ったことしかないし、たいした会話もしたことがない。
だから、余計にわからなかった。
リーシャがテッドを見ていると、不意に彼がこちらへ来るようにと首を動かす。
どうしようかと思い、迷う。
「来い」
「行かないよ」
あまりにも身勝手な態度に首を横に振る。
テッドはリーシャの返事に眉を寄せた。
「俺に逆らうのか?」
「私が君の言葉を聞く理由はないから」
「理由なら、ある」
「なに?暴力とか?」
彼はリーシャの言葉に苦い表情を見せ、口をつぐんだ。
どうやら図星だったようだ。
ため息をつくとテッドを見た。
「暴力とか、嫌なことを言わないなら入ってもいいよ」
リーシャの声にテッドは俯かせていた顔を上げる。
その目は何事かと見開かれ、驚きに口を半開きにしていた。
「しなかったら、入るのか?」
「うん。約束してくれたらね」
頷きながら言えばテッドは少し迷うようにわかったと了承した。
それにニコッと笑ったリーシャ。
やはり、ガキ大将と言っても子供。
素直で可愛い。
テッドはそこでなぜか顔を赤くし、俯いた。
「つ、付いてこい……」
フイ、と家の中に顔を向けるとテッドは先に中へ入る。
それに続いてリーシャも家の中へと入った。
中へ入ると目に入ったのはテーブルだった。
それも家と同じく、かなり使い古された感じだった。
テッドの家計の苦しさを物語っている。
どこもかしこも、ボロボロで壁には所々小さな亀裂があった。
キョロキョロと部屋中を見ているとテッドが声を掛けてきた。
「茶、飲むか?」
「うん」
ガキ大将であるテッドがリーシャに対して客人と同じようにするのに驚いた。
連れて来させたのに、リーシャをもてなす。
矛盾しているが、彼なりの気遣いなのかもしれない。
テッドはキッチンでお茶を入れるとリーシャに出しそれをありがとうと言って飲む。
熱くもなく冷たくもないが、気にならない。
それよりも。
「私、君に何かしたかな?」
「は?」
意味がわからないと口を開けるテッドにリーシャはもう一度話した。
「だって、君の家に連れてこられた理由がわからないし……」
「っ……あ、だよな……」
今更な問いにテッドは気まずそうに表情を歪めた。
確かに改めて言われれば、誘拐に近いことをしたのだ。
リーシャ自信に自覚はなくともテッドが自分を家に連れてくるように指示をしたのは事実。
「ただ、その……だな……」
しどろもどろに話すテッドにハテナマークを浮かべ、「あ」と閃いたように表情を明るくした。
「ローくんと仲良くなりたいんだね!」
「……なに?」
「だって、ほら。テッドくん、前にローくんと遊んだことあるんでしょ?」
「あれは遊ぶっつーより……」
テッドが弁解を言う前にリーシャが言葉を遮る。
本人には決して悪気はない。
「だから、ローくんと喧嘩してるから、また仲良くなりたいんだよね!」
普段、本しか読まないローと仲良くなれる友達候補としてテッドが上がったことに嬉々として応援しようと意気込むリーシャ。
テッドの言い分、というより弁解は全く違うのだが。
「よかった……ローくんと親友になってくれる子がいて……」
「……!?」
リーシャの呟きに目を見開くテッド。
元々、テッドとローは仲良くなんてない。
最初からローが気にくわなかったテッドがローに嫌がらせとして仕掛けた罠に、自分が逆に嵌まってしまっただけのこと。
ローが口にした「腰が抜けた」という出来事はそれなのだ。
「違っ……!?」
テッドが否定しようとした時、玄関の扉が乱暴に開いた。
リーシャとテッドがそこを見ると立っていたのは。
「よぉ、テッド」
「トラファルガーっ!」
「あ、ローくん」
焦る口調のテッドに対してリーシャはのんびりとローを見ている。
ローは明らかに正反対な二人の反応に眉をしかめた。
[ back ] bkm