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「ロー様〜!!」
「うざい」
いつものやり取りにリーシャは苦笑しながらお茶を出す。
「すまねェな、アリシアの奴が……」
「気にしないで、それに二人が来てくれて嬉しいし」
アリシアとテッドが遊びに来るのは久しぶりだった。
二人が付き合っているのは、周知の事実。
どういう経緯でそうなったのかは誰も知らないが、お互いが否定しないのはつまりそういうことなのだろう。
「逆に、私達に会いに来て平気?アリシアちゃんが……」
リーシャの言わんとしていることを察したのかテッドは落ち着いた様子で笑った。
「アイツが喜ぶなら構わない……やきもちを焼く程危機感は感じないし、俺はむしろああいう態度でいてくれた方が楽だから」
「そっかぁ……」
何だかんだ言っても彼ももう子供ではないのだ。
リーシャは長年ずっと十九歳の時から二人を見ているだけあって親のような気持ちになる。
「それに、俺も諦めがついたし……格好悪い人生を歩まずに済んだしな」
「え?」
「いや、何でもないです」
テッドは最後まで答えるつもりはないようで、リーシャも聞こえにくかった今の言葉を二度も聞こうとは思わなかった。
今のテッドの表情はどこか晴れ晴れとしていて、口を挟むのは憚(はばか)られたのだ。
「おい、アリシア!いい加減静かにしろよ。紅茶が冷めちまうから早く椅子に座れ」
「だから!わたくしに命令しないでと何度申し上げたら――」
「はいはい。わかりましたお嬢様。早く御席にお座り下さい……世話がかかる奴だな……はァァ」
「ちょっと、バッチリ聞こえてますわよっ!」
「バッチリって、お前こいつの言葉遣い移ってるぞ」
ローに指摘されアリシアは顔を蒼白にした後赤面させた。
どうやら気付いた自分が恥ずかしく思ったようだ。
リーシャは他人事だが、とても嬉しく思った。
(無意識か……可愛いなぁ)
初な二人はとても微笑ましくとってもお似合いだと感じたしローと接するよりテッドと言い争うアリシアの方が彼女らしい。
「二人に今度、交際記念のプレゼントをあげるね」
「「っっ!!」」
リーシャがそう発言するとカップルの二人は真っ赤な顔をして俯いた。
出したお茶を飲み終えた頃には外は薄暗くなっていた。
それに気付くとアリシアとテッドは「お邪魔しました」と言って帰っていった。
「騒がしい奴らがやっと帰ったな……」
「え?ローくん、満更でもなかったでしょ?」
「別に……」
既に無意識の癖と化している『照れ隠し』をしながら呟くロー。
「ふっ……あ、ごめんね」
思わず笑ってしまい軽く睨まれてしまった。
なんとわかりやすいことか。
「二人、やっと付き合ったね」
「今更……って言うべきか?」
「今更?私、アリシアちゃんはずっとローくんの事好きだと思ってたんだけど……」
ローとの見解が食い違う。
昔から「好きですわ」と恋のアタックをしていたアリシアの心境の変化はとても驚いた。
あんなに反発してケンカし合ってばかりの二人が(今でも変わらず)なぜ付き合う事になったのかは本当に疑問に思う。
言わずもがなと暗黙の了解扱いだが周りの人達だって二人の経緯を知りたがっているのだ。
それについて、多くを語らないのだから謎は深まっていくばかりである。
もしかして、とリーシャの中で閃きが灯った。
「ローくん、アリシアちゃんとテッドくんが」
「知らねェ」
「まだ途中……やっぱりローくんも知らないんだね」
何故か不機嫌で返してきたローに苦笑する。
内心何か知っているのではないかと勘が働いたが、本人が隠したがってるようなのでこれ以上聞けなかった。
「二人が恋人、かぁ……なんだかちょっぴり羨ましいな……」
「二人がか?」
前の会話は初めからなかったかのように振る舞うローに頷く。
「だってね、恋人って憧れるでしょ?ずっと一緒なんだもん……いいなぁ」
感傷のような淡い気持ちを抱く事はさぞや夢心地だろう。
「でも、私にはジェイドさんとローくんがいるし。贅沢過ぎたね……」
ローの表情は納得のいかないような顔をしていたが、リーシャは敢えて気付かないフリを突き通した。
「さて、と……夕飯の準備に取り掛かろうかな」
にこりとローに笑いかけてリーシャはキッチンへと向かった。
想いを馳せては影に散る消極者よ、その瞳は何を映しているのだろうか
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