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更にローが距離を詰めてくると金色に光る二連のピアスが目に写る。
少し前から彼が付け始めたものだ。
びっくりして何度も「どうしたの!?」と聞いたものである。
「ローくん……」
「ロー、呼べるだろ?」
催促してくるローの熱く求めるような視線にリーシャは言葉に詰まる。
「っ−−ロー……」
「フフ……いい子だ」
流されるように口が始めて言う発音に頬に熱が集まる。
(は、はずかしい……)
意識して呼んだことなどないのだから当然だろう。
ローはリーシャの表情に満足げに笑い、顔を近付ける。
「二つ褒美をくれてやる」
「え?……な、何?褒美って−−」
と顔を上げたリーシャの額に暖かい熱が落とされた。
「っ!?……ロ、ローくんっ!」
いつもの呼び方に戻ったリーシャは彼にキスをされた箇所に手を当てる。
「もうしたんだ。諦めろ」
開き直るように笑みを浮かべるローに羞恥心がふつふつと沸き上がってきたのだった。
しんしんと雪が降っている。
リーシャはバイトの帰りに空を見上げた。
「どうした」
「んー、何となく見上げたくなったの」
「……行くぞ」
彼はリーシャの言葉を聞くと手を引く。
「待って待って、もう少し見ていきたいな」
「家からでも見える。身体が冷える前に暖炉であったまるのが先だ」
有無を言わせぬ返事にリーシャはふふ、と笑う。
「どうしたの?」
ローの最初の問い掛けを繰り返した。
「何がだ?」
「今日のローくん、いつもと……違うような気がしたから」
ローは微かに目を見張り、スッと視線を地面に向ける。
「リーシャ」
「ん?」
顔を上げたローは今まで一度も見た事がないような真剣な表情をしていた。
「海に出ることにした」
その日はいつものように、日常に溶け込むような雪が降っていた。
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