29
「リーシャ」
「………」
「リーシャ!」
「わっ!な、何ローくん?」
最近、リーシャはぼーっとしていて上の空だ。
声をかけても今みたいに返事をしない時がある。
「出掛けるぞ」
「どこに?」
だから気をきかして、外の空気を吸わせようと思った。
「……今は言わない」
そう言うとリーシャは困惑した表情でローを見た。
「あ、これ可愛い!」
「これはどうだ」
「ん、それもいいね」
今、ローとリーシャは雑貨屋に来ている。
女はこういう所が好きだと新聞で見た事がある。
「わー……迷うなー」
リーシャがキラキラと目を輝かせている間、ローはある一つのアクセサリーに目を止めた。
「サファイアか……」
まるで深海のような蒼さに、吸い込まれるような感覚がした。
小さいが値段がそれなりにするため、買えないが。
「……ん?」
その隣にあった、小さなオルゴールが目についた。
「あ、それ凄く素敵……」
リーシャも同じ物に興味を持ったようで、オルゴールの蓋をゆっくりと開けた。
「………」
「……綺麗」
リーシャはほぅ、と聞き惚れている。
ローもこの曲の音色に耳を傾けると蓋を閉じ、それを持ってレジに向かう。
ローくん?と不思議そうな声色が聞こえたが、そのまま進んだ。
「これを買う」
キセルを加えた老人がこちらを見ると、オルゴールを受け取った。
「これは……また懐かしい物を――」
目を細めながら呟く老人はローとリーシャを交互に見るとふむ、と考えるようにキセルを口から離した。
「これはわしがある人間から買い取った物でね……。随分と古いものだから、このオルゴールはお前さんらに差し上げよう。もちろん代金はいらないよ」
「え……」
リーシャは老人の言葉に声を上げる。
ローは「じゃあもらっていく」と言い、リーシャの手を引いて店を出た。
「ロ、ローくん、そのオルゴール……」
「やるって言ってたんだからありがたくもらっておけばいいんだよ」
「う〜ん……」
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