26
「離れろ」
「そんな照れ隠しも素敵!」
「黙れ」
「………」
リーシャはひたすら言葉を失っていた。
だって先程家に上がり込んできた女の子がローを見つけるなり抱き着いたのだから。
女の子は嬉しそうに抱き着いているけどローは嫌そうな顔をして必死に引きはがそうとしている。
「二人は……恋人、とか?」
「違う」
「そうですわ!」
違うようだ。
多分思い込みの強い女の子なのだろうとローに向けて苦笑いをした。
リーシャの本来の年齢は十九歳。雰囲気や言動でお互いがどう思っているかなんてカンでわかる。
つまり、ローは嫌がっているけれど女の子はローのことが好きなのだとすぐに理解できた。
「とっとと離れろ虫」
「虫って、酷いですわロー様っ!」
「じゃあ俺を嫌いになれ」
「それは無理ですわ!」
エンドレスなやり取りにリーシャは見ているしかない。
するとやっとの事で引きはがしたローはリーシャの方へやって来る。
「リーシャ、向こうで続きするぞ」
続きとはチョコレート作りのことだろう。
ローがリーシャの手を引っ張りキッチンへ向かおうとする。
(え、放置?)
あの子はいいのか。
というか一体誰だろう。
「お待ちになって!」
「なんだ、まだいたのか」
(………)
女の子の扱いが凄い。
普段見られないような姿にリーシャは微苦笑する。
「その子は誰なんですの!?」
「お前には教えない。お前も絶対答えるな」
ローに念を押されとりあえずはぁ、と頷いておく。
こういうパターンはリーシャが一番巻き込まれるからだ。
よく小説でもあるし、厄介事には関わらない方が身のためだろう。
ローと私は女の子を放置したままキッチンへ再び歩き出す。
「っ、わ、私も行きます!」
やはりというか、着いてきた。
ローは顔をしかめ私の手を離し女の子の手を掴む。
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