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アリシアの家から戻ってきたローは不機嫌だった。
「おかえり、ローくん。どうだった?新年の挨拶はした?」
「俺がアイツになんか、するわけないだろ」
「う、うん……」
曖昧に相槌を打つリーシャ。
去年の反応とは違う事に戸惑う。
「腹減った、何かあるか」
「お節の余りがあるよ。食べる?」
「食べる」
くたくたな様子の彼にリーシャはお節料理を出す。
「もう、十七だね。ローくんも……」
毎年シミジミと感じる。
「今年の話だろ?まだ、なってない」
「そうなんだけどね」
クス、とついつい笑う。
「あのね?なんだか、私達が出会ってそんなに経ったんだなぁって思ったら、懐かしくって……」
ローに拾われた日。
リーシャが十歳になっておりワンピースの世界に来た日でもある。
「幸せだなぁって思っちゃてね」
「………」
「あ、浸ってる場合じゃなかったね。私、ジェイドさん呼んでくる」
何も言わないローにリーシャは、いけないと少し焦り、この場から去るようにジェイドの私室に向かった。
ジェイドの部屋の扉を数回ノックする。
「どうぞ」
「食事ができました」
「そうかい。あぁ、そうだ。そこに座ってもらえるかい?」
ジェイドに足されリーシャはソファへと腰を下ろす。
「今年も無事に明けたね」
「はい」
年越しの挨拶を改めてされるのかと思ったがジェイドの次の言葉は違った。
「バイトの件だが、やはり許可をできない。危険過ぎる」
バイトと言うのは、実は年が明ける少し前にジェイドに働いてもいいかと聞いた事である。
「海賊なんかは、いつやってくるか分からない」
「わかってます。けれど……」
ジェイドは医者。
周りの家に比べると十分過ぎる程裕福で。
働く必要はないと言われるのはごく自然なのだろうがそれでも経験を積みたかった。
「お願いします。酒場には行きません。もっと違う場所で働きます」
だから、とリーシャはもう一度ジェイドを見つめる。
「……ローとは良い勝負だ。わかった、好きにしなさい」
「……!!」
ジェイドの納得と降参の入り混じった表情。
ジェイドの承諾にリーシャはハッと目を開く。
「あ……っ、あ、ありがとうございます!」
「ただし」
「え?」
リーシャが感激しながら礼を唱えるとジェイドが目つきを強める。
「ローも一緒にね」
にっこりと初めて見る笑みを見た。
ジェイドに条件付きでオッケーされたバイトのことを考えリーシャはテーブルの上で突っ伏していた。
「どうしよう……はぁぁ」
「ため息なんて珍しいな」
「うん……ええ!」
ガタタ、と椅子から転げ落ちそうになり慌ててテーブルの淵に手を伸ばした。
「いつからいたのっ」
「今さっき」
「今の、聞いてた……?」
「『どうしよう』の部分からな」
(最初から……うぅ、アレの事、今言うべきかなぁ……)
リーシャはウンウン唸る。
「何だ、悩み事か?」
「ま、まぁ、そうかも」
「?……言ってみろ」
「え!で、でも……」
「とりあえず、言うだけ言ってみろ」
「………」
ローの言葉に背中を押され、怖ず怖ずと説明と頼み事を口に出す。
「はァ、そんな事か」
「私にとっては凄く大切なんだけどな……ローくんには負担かけたくないよ」
リーシャは俯きながら本音を漏らす。
自分のプライベートをローのプライベートな時間に使わせるのが申し訳ない。
「そんな事を気にするなんて、お前らしいな」
「そんな事ないよ……」
ローはフッと笑うとこちらに一歩近付いた。
「お前の頼みはよくわかった−−ただし、条件付きだ」
(ジェイドさんと全く同じ事言ってる……凄いなぁ)
彼の切り出し方といい、甘い飴と鞭を使いこなしていることに内心微笑む。
「条件って?」
「俺の事を呼び捨てにすること」
そう言うローの瞳は真剣だった。
「ど、どうしたの?いきなり……」
「いきなりじゃねェ」
「も、もしか、して思春期?」
リーシャは眼を泳がせるしかなかった。
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