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「お前こそ、堅すぎんだよっ。泣いてるもんは泣いてる!」

「お黙りなさいっ」



堪えるようにテッドにぶつかるアリシア。
突然の衝撃に尻餅をつく。



「っ、てー!何しやがっ……!」



文句を言おうと共に転んだアリシアを見たテッドは息を呑む。
あの生意気な少女が震えていたのだ。
どうしてかと疑問が頭に浮かんだが質問も文句も言う気が削がれたのは確かだった。
テッドは慣れないことに同様しながらも無意識に周りを見回す。



(だ、誰もいねェよな?)




アリシアと自分が抱き着いている場面を目撃されるのは困るしアリシアもアリシアでこの後の事でプライドを全力で守る羽目になるだろう。
そんなことを思いつつテッドはゆっくりと不器用に彼女の頭に手を置いた。



「俺が肩を貸すのは今が最後だからな」



言葉が悪いのは仕方がない。
テッドがそっぽを向きながら言えばアリシアは無言で首を縦に小さく動かした。



「な……何があったか、き、聞いてやらないこともない。独り言にしといてやる」



慰める方法など思いつかないテッドはレパートリーが少ない打開策を提案した。
少々、あまのじゃくだが。



「わたくし、ロー様にフラれましたの。ただ、それだけですわ……」

「………」



テッドが言い終わるや否や、アリシアは至極簡潔に独り言を呟く。
勿論テッドは驚いた。



「ええ、もちろん……こうなることは最初からわかっていましたもの。だって、ロー様は、わたくしなんて全く見ていなかったの」



アリシアは息を吐き出した。



「わかっていましたわ。だって、わたくしはロー様が好きで、幸せになって欲しいんですから」

「……!」



テッドは衝撃を受けた。
何たって、アリシアが素直に後を引いたのだから。
幸せ、と彼女の口から次いでた時、自分も考えてしまった。



(幸せ……)



テッドは幸せの定義を知らないし裕福な家に生まれたわけでもないし、だからと言って不幸だとも思った事などなかった。
自分の幸せ、他人の幸せが必ずしも一緒ではない。
付き合う事が幸せではないと彼女は言いたいのか。



「違ェ……お前、何言ってんだ」

「……おっしゃる事がよくわかりませんわ。しかも、独り言に口を出さないで下さる?」



テッドと同じようにムッとしたのかアリシアは口を出すなと言う。
たが、自分とて言いたい事を我慢しない性格だ。




「うっせーな。お前が最初っから消極的だからだろ」

「はぁ?わたくしが、消極的?」

「そうだろうが。フラれたとか言うけどよ、お前は結局簡単にトラファルガーを諦められる程度でしか思ってなかっただろ」



テッドがそう言えば、アリシアはカッと頭に血が上ったように顔を赤くし反動でテッドから手を突っぱねて肩を押し返す。



「あ、貴方にっ、貴方にわたくしの気持ちなんてわかりませんわ!わたくしには婚約者がいますのに、最初から諦めなければいけないのにっ……そんなこと、やめて、いや……!」


「っ!?」



アリシアの悲観な悲鳴にテッドは眉を下げて凝視する。



(婚約者って、何だよ……)



初耳だった。
アリシアはローが好きで、ロー以外に選択肢はないと思っていた。



「貴方は、わたくしより自由で羨ましいですわね」




比喩とは全く違う皮肉と自嘲が入り混じった声だった。



「自由自由って、お前は受け入れることしかできねェだけだろ。逃げてんじゃねェか。本当に選択肢は、お前の道は一つしかねェのか!?」



悔しくてイライラした。
けど、イライラは自分のことではなくアリシアに感じた、足掻いてもいない貴族の少女に。



「先程から図々しいですわね。では、貴方はわたくしを受け入れられるの?貴族でしかない、わたくしの全てを受け入れられるとでも?結婚も、未来も、貴方にそんなことができますの!?」



アリシアは最後まで諦めたふうに怒鳴る。
癇癪(かんしゃく)ではなく、心の悲鳴に聞こえた。





「あァ――あァ!やってやるよ!!」

「……!?」

「お前の何もかも、全部引っくるめて受け入れてやるよ!ド派手な化粧だろうが、わがままだろうが、怒鳴り声だってな!」

「な、何を言っているか理解していますの!?」



少女はテッドの言葉に目を最大限まで開かせていた。



「んなもん、わかってるに決まってんだろ!男に二言は無ェ!黙って頷けよ、自分から言ったんだろっ」



最後はやけくそだった。
でも、不思議と後悔の気持ちは湧いてこない。



「……貴方って本当……バカですわね……」



言葉とは裏腹にアリシアは嬉しそうに笑っているように見えた。



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