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「わかったわかった。グリンピースはローくんの分だけ抜いとくから」



意地でも食べないと宣言するローにリーシャはそう言ってキッチンへ向かった。








***








――夜。
晩御飯を食べ終えたローは一人で本を読んでいた。
リーシャは先に寝た。
うつらうつらと眠たそうに船を漕ぐのを見兼ねて寝床へ行く事を催促したのである。



「ベポ。お前ももう寝ろ」


「アイアイ」



いつもリーシャが寝た後必ず何故か起きているベポ。
ローがそう言うと、ベポもフラフラと眠たげに専用の場所で身体を丸めた。
たまに、ローかリーシャのベッドで寝る時もある。



(寝るか)



自分もそろそろ寝始めようと部屋へ向かう。
と、その前にリーシャの居る場所へと足を進めた。
眠っている為静かに扉を開ける。



(寝顔はいつ見ても無防備だな)



昔からそうだった。
ローはぐっすりと寝ているリーシャに近づく。



(起きねェのもかわんねェな……)



ゆっくりと顔を覗くとすやすやと目を閉じているリーシャに口元が緩む。


「リーシャ……」








ローは音もなく彼女の唇を塞いだ。
いつからこの行為を始めたのかと聞かれれば少し前と言うべきか。
キスと言う行為は幼い頃から話には聞いていた。
リーシャが寝ている時にこっそりとするようになった。
でも、リーシャは起きなくてこのままずっと唇を合わせていたいと衝動に駆られるが気づかれる前に唇を離した。
フッと息を吐く。
甘く、魅惑な感触にローは内心嘲笑う。



(俺は馬鹿だな……)



こんな襲うような事をしてリーシャが知ってしまえば悲しむだろう。
悲しくても、手放す気はない。
喚いたって、どんな事を言われてもされても離さないつもりだ。



(勝手すぎる)



自分の行動や気持ちに呆れ果てる。
そんなことが赦されるわけないと。











***










「ローくん。これお願い」


「……今年もか」

「うん。大事でしょ?」



リーシャに風呂敷包を渡されたローはげんなりとした表情を浮かべた。
年明けの挨拶回りをする為にアリシアの家は彼が担当なのである。
リーシャもリーシャで近所の挨拶周りをせねばならなくてその為にできるだけスムーズに動けるようにローも働くことになったのだ。
自分が行けばアリシアに苦い顔をされるのはわかっている。



「ほらほら」

「はァ……ウツになりそうだ」

(けっこう重症……?)



最早アリシアをローは受け入れていない態勢にリーシャは渇いた笑みを浮かべる。
今現在であってもラブレターは滞る気配がなく、そのせいで恒例行事になりつつある『ラブレター焼き』は見慣れたものである。
ジリジリパチパチと愛と熱烈な文が綴られているだろう封筒が毎朝毎朝燃やされるのをリーシャはただただ見ているしかなかった。
彼は低血圧の為、不機嫌な様子で暖かい火を焼べるのだった。



「無理だったら、無理だって言ってね?私が行くし」

「いや、行く」

「本当?大丈夫?」

「これくらい、平気だ」



ムッと口を歪めて風呂敷包を受け取るローにいってらっしゃい、と手を振った。









***









今日は厄日だ、とローは文句をブツブツと心の中で呟く。
今日の予定を脳内で組み立てていたのにアリシアという自分にとっての宿敵(目の上のタンコブともいう)によってくしくも崩された。



(あいつもあいつで、よく毎年作るよな)



あいつとはリーシャのことでアリシアにあからさまに嫌われている事を知っているくせにこうして挨拶周りの品を渡す。
本当にお人よし過ぎる。




「虫になんて、エサで十分だろ」



昔から追い払っても引っ付くアリシア。
いつからか、それは日常になり家に来ることが普通になった。
それは、やはりリーシャの纏う空気によるものなのかもしれない。
彼女がいれば自ずと人が寄ってくる。
テッドや勉強会の子供、色んな存在を引き付ける少女。



「俺も言えねェか……」



独り言になっていても特に気にしない。
ゆっくりと行きたくもない屋敷へ着けば深いため息と共に眉を寄せながら進む。



「まぁまぁ、ロー様!わたくしに会いに!?」



扉を叩けばすぐにアリシアが出て来て開口一番に言い、飽き飽きしたその言葉にローは冷めた目を向ける。



「違ェ。挨拶周りの品を届けにきた。じゃあな」



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