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こんなに人がたくさん集まる場所にローを連れていかなければと。
触れ合い、否――交友関係の輪を広げなくては。
あまりローは身内以外とは馴れ合うことはしないのでローの腕を引っ張る勢いで話歩くがそれでも彼は苦虫を潰したような顔をする。
人と関わることを苦手としているのか快く思っていないのかどちらなのだろうか。



「チッ」

「ああっ!ロー様ぁああ!!」



ローの舌打ちと共に貴族の娘は現れた。
リーシャは苦笑しながら彼の腕を静かに外す。



「本当に、今日は最悪だ」

「ロー様!来て下さいましたのねっ。わたくし、アリシアは、嬉しく思いますわ!」

「はァ」



ローの文句はアリシアのハツラツとした声により掻き消された。
諦めのため息をつくローに彼女は気付かないまま近寄る。
アリシアの父親が主催者のようなもので、だからか彼女の服装は周りと比べて群を抜いていた。
キラキラと恋する乙女の目で色男を見つめる姿もまたいっそう少女を輝かせているのかもしれない。



「ロー様。今夜のダンスはわたくしと踊って下さいませ!」

「嫌だ」

「ガァン!」



効果音を声で表したアリシアはよろよろと後ろへよろめく。
それを普段、リーシャに見せる笑みとは全く違う表情で見るローにショックを受けている少女が誰かとぶつかった。



「ぶっっ!?」

「きゃああ!」



二つの身体がぶつかり、すってんころりんと尻餅をつく。



「っ!――なん、だっ!て、またお前ェか!」

「また貴方でしたの!?わたくしの邪魔をなさらないでっ!」



ぶつかったのは男――テッドだった。
少年は少女と一緒に転んだ後、急いで立ち上がるとぶつかった原因へと怒りの目を向ける。
やはりここは予想していた通り二人は喧嘩、もとい言い合いを始めた。




「あいつらもよく飽きねェな」

「仲良しだよね」

「確かに似てるしな」



ハツラツ少女とガキ大将の言い合いはこの町では既に名物となっていることは当事者二人は知らないのだろうか。
周りはいつもの事かと慣れた様子でパートナーを探し始めていたり、オロオロとメイドや執事達は困惑していながらも必死ではないのは、貴族の娘であるアリシアが怒っていながらもどこか楽しそうな表情をしているからかもしれない。
ぎゃいぎゃいと外野が騒いでいるのをリーシャが眺めていると、不意にスッと綺麗で自分のものより大きい手が視界に写る。
その手を辿るといつもと少し違った優しげな目と合わさりそんなローのふんわりと包み込むような表情はやはりジェイドの面影を感じ親子だと言ってしまえば終わりだがまた一味違った微笑む顔がリーシャを安心させるのだ。



「俺と踊ってくれますか?」

「はい……喜んで」



普段の口調と違う言葉遣いにくすくすと笑いローの手を取り彼はリーシャの手を握りそのまま誘導しながら歩き出す。
コツリコツリと響く足音に不思議な気持ちがする。
バイオリニストやピアノ弾きなどの音楽が部屋に流れているのになぜか二人の歩く音や動作がスローモーションのように感じた。



(浮いてる、みたい)



ふわふわと夢心地のようで一歩一歩、歩く度にぼんやりと風景が静止する。
こんな風に映る世界が、自分が。
全てが現実的な曖昧さで創られるものが、リーシャの元いた世界が生んだ世界で。
そんなことを考えても今更、客観的に見られない。
どう考えても、どう見ても、どう動いても、全部が全部、リーシャにとっては“命”にしか思えないのだ。
例え、紙の中で生きている人間達だと知っていても自分の概念は既に温かみを確かに知っている。



「手を腰に当てるぞ」

「うん。わざわざ確認しなくていいのに」

「一応だ」



リーシャはローに声をかけられて、ふっと意識を戻し悟られないように返事を返すと彼はふいっと横を向く。
これは恥ずかしがっている時の癖だ。



ローは違和感なくゆっくりとリーシャの動きを促す。
ダンスはダンスでも社交ダンス。
まるで貴族の気分である。



「私達、上手くなったね」


「俺がお前に教えたからだろ」

「まぁね」



ちなみに、それをずっと見て感想をくれたベポが「リーシャってキャプテンとお似合いだね」と、どこで覚えたのかそんな評価をもらった。




「余所見をしてると足、踏ん付けるぞ」

「その時は耐えてくれれば助かるかな」

「馬鹿言え……」


ぶすりと顔をしかめるローにリーシャはクスクスと肩を震わせた。



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