06
「お前のことだったんだな」
「……………私で、いいんですかね?」
語られるような綺麗な思い出ではなかろうに。
自尊心を傷付けてきたリーシャを今でも覚えていたことでも十分だ。
「いつの頃だったか、アイツが探し出すことはいけないことなのかと迷っていた」
迷うという事をしない彼の表情が浮かばなくてつい笑ってしまう。
「自問自答してやっぱり見付け出して」
「リーシャ!!」
「キッドのお目覚めみたい。話の腰を折ってしまってごめんなさい」
船の中から我が儘な大きな子供が母親を探すような声と足音が聞こえた。
キラーは言いかけた言葉を止めてもう行くといい、と催促する。
お言葉に甘えて先に戻ることにした。
最後に別れを告げなければいけない。
リーシャが甲板から去りキラーは一人地平線へと顔を向け、誰にも聞かれる事がない言葉を独り言のように呟いた。
「見つけ出したら――絶対に離さない、か……」
前にキッドから聞いた台詞を誰に言うでもなく呟き、マスク越しに微笑を浮かべた。
キッドの寝室に移動すれば不機嫌な顔と出会う。
どこに行ってたと問い詰めてくる男に甲板だと短く言えば満足したように手招きしてきた。
それに従うと男らしい腕が腰に回り彼の膝に座る形となる。
慣れない行為に羞恥心が身体をよじらせるが彼はものともせずに強く引き寄せた。
「島に着いたよ」
「それがどうした」
「と、言われても……わかってるでしょ。もうお別れだし」
「あ゙あ?誰が下船許可した」
「へ、や……私海賊じゃないし」
「この船に乗った時から全て俺の所有物だ」
益々分からなくなり混乱した。
「え、だから、私は……」
「許可してねェのに降ろすかよ」
「な、な、な!」
やっと状況を把握出来たはいいが厄介な事になった。
慌てて彼から離れようとするが回された手はビクともしない。
胸を強く押すが片腕に絡め取られた。
顔が胸板に落ちて身動き出来なくなるとキッドはくくく、と笑い意地悪な顔付きで言い退ける。
「まるで蜘蛛の巣にかかった蝶を仕留めた気分だぜ」
「!……っ」
視界いっぱいに写る赤い色彩に離れることは出来ないと悟り、甘んじて人生を差し出そうと苦笑した。
罠に嵌まる蝶
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