04
バッと部屋を出て走る。
それに続いて聞こえた言葉に足が止まりそうになるが立ち止まってはいけないと己に言い聞かせた。
廊下ばかりが続くのは道を知らないからで、小船の場所すら分からない。
がむしゃらに足を動かしていれば背後から腕を掴まれ壁に身体を押さえつけられた。
「なんでてめェが……!」
「っ、退いて」
「海兵になんてなってんだよ」
低く唸るような声音。
蝋燭の炎でほの暗いがキッドの顔ははっきりと見えた。
「退いてよ……私は貴方なんて、知らない」
「見え透いた嘘ついてんじゃねーよ」
ギリッと腕に痛みが走るがリーシャは目を反らして息を呑むと今度はしっかりと彼の目を見る。
「私は、貴方の知ってる私じゃありません」
その意味を理解したキッドは更に顔を怒りで歪めた。
怒っているようで、悲しんでいるようにも見える。
リーシャは身体をよじり壁から離れようとするが全く動けない。
「行かせるか」
「きゃっ!」
ずりずりと腕を引かれ近くにあった部屋の扉を開きリーシャをそこへ押し込む。
誰か生活している部屋だと見て取れたが考える暇もなくベッドに投げ飛ばされる。
質のよいもののようで痛みはなかったがキッドが直ぐに跨がってきたのでギシリとスプリングが響いた。
「嫌っ!離して!」
「うるせェ。お前は海兵、俺は海賊だ」
線引きの台詞に苦痛を感じたのはリーシャか、キッド自身か。
ブチッと制服のボタンが弾け飛ぶ。
腕を縫い付けられ首筋に男は顔を埋めるとぬるりとした感触が這う。
必死に漏れそうになる声を我慢すればちくんとした痛みが数回。
キスマークをつけられたのだと考えるまでもない。
「俺はずっと待ってた、あの日」
キッドは口を動かして耳をちろりと舐め、耳たぶを甘噛みしてきた。
「んあっ」
「だがお前は来なかった」
片手で器用に服を剥いでいく。
その度に赤い跡を残す。
「後から聞けば既にお前は島にすらいないとよ」
お腹をべろりと舐められ背筋が震えた。
「再会してみりゃあ」
また上に戻り顔を近付け、
「海兵だァ?」
「んう……!」
キスをしてきたキッドを責める言葉や権利をリーシャは持っていない。
話すことすら罪で、罪悪感に涙が零れた。
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