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同業者の男から話を聞き終え、食事も済ませると各自夜まで解散となった。
いつもローと行動するリーシャだが、今回は久々にベポと行動すると進言した。
彼は構わないと言ったし、ベポもはしゃぐ様にリーシャの手を取ると外へ繰り出したから安堵する。
さすがにベポ相手では、あのローも強くは言えないようだ。
街中を歩く姿を見れば自然と会話が出てくる。
「ベポ……船は……航海は楽しい?」
攫われるように船に乗った自分が、こんな事を尋ねる事に可笑しく感じたが、ベポは特に気にした風はなく、笑顔で頷いた。
彼が故郷の島で嫌な目に合っていた時に、十分守ってあげられなかった自分が不甲斐なかったのだ。
子供にものを投げつけられると聞いた時、どうしようもなく怒りと後悔が入り混じるのを感じた。
どうして自分は何も出来ないのだろうかと。
せめてもの抵抗にベポが外を歩く時に分厚い服を作った。
正確に言えば知り合いの人に作って貰い痛みをなくし、衝撃も少なく出来るような服を着させた。
そして、耳栓も付ける様に言ったのだ。
しかし、動物であるベポは人間よりも優れた聴覚をしていたのであまり効果はなかった。
ごめん、とリーシャは何度も彼に謝ると「平気だよ」と痩せ我慢をするベポに、もっとやるせなくなった。
「俺、キャプテンとリーシャと皆で旅が出来て幸せなんだ」
「……そっか」
顔を綻ばせるベポに本当に心の底から歓喜を感じているのだと涙が出そうになった。
「あ、リーシャ。あの貼紙見て!」
「ん?……イースター・エッグ祭が明日から始まるので衣装を貸し出します……」
貼紙に記入されていた文字を読み上げると衣装写真の例が写っていた。
イースター・エッグとは聞いた事のある響きだ。
きらびやかな装飾に目が釘付けになる。
「……着てみたいかも」
「きっとリーシャなら似合うな」
「うーん……そう、かな?でも……派手だから着ないよ」
「え?せっかく無料で貸し出しされるのに……」
ベポが残念そうに呟く声が聞こえ、リーシャも名残惜しげに写真を見てしまうが、派手な服は自分には似合わないだろうし、気が引けた。
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