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「−−さん。リーシャさん、リーシャさん」
「ん……」
ぼやける視界に少しずつ脳がハッキリとしてくる。
ぱちりと瞬きを一つするとセンナの輪郭が見えた。
(ゆ、め?)
ローとのキス間近で。
しかも、やけにリアルでありえない内容。
リーシャがローとキスをする夢を見たのだ。
あと少しで唇を合わせるところだった事を思い出すと赤面する。
センナとの話しの途中で浅く寝てしまったのだと聞く。
それよりも、頭は夢の内容でいっぱいだ。
その時、ローが部屋に入ってきたので過剰に反応してしまった。
「どうかしたのか。顔が赤い」
「き、きっと暑いからだよっ」
「暑い?そうは思わねェ……」
「ローくんはお風呂に入ったからだよ、きっと」
きっと、の部分を強調しつつセンナに浴場に行こうと誘う。
彼女もリーシャの反応に戸惑ったように頷いた。
「ごめんなさいセンナさん。あまりにも恥ずかしい夢を、見たから……」
「ふふ、そうだったのね」
浴場へ向かう廊下でセンナに事情を説明する。
内容は恥ずかし過ぎるので秘密だが不審に思われるのも気まずく思ったので話した。
朗(ほが)らかに笑うセンナに恥ずかしく感じながら納得してもらえた事に安堵の息を漏らす。
ローには絶対に言えないのだから少しだけ気持ちが楽になった。
大浴場へ向かうと脱衣所に入り、服を脱いでタオルを巻く。
「覗く人はいませんから安心して入れますよ」
「海賊なのに凄いわね」
「あははっ」
本当に驚いているセンナにリーシャは嬉しくなる。
麦藁海賊団のようにちゃんと理解がある船員達が自慢なのだ。
最も、リーシャは心優しい全員が友人として好きだ。
センナも浴場に入る準備が整ったところで扉を開いた。
彼女が感嘆の声をあげる。
広々とした空間に幾つものシャワーと鏡が立ち並ぶ光景。
「広いわね……」
「女性の私達は貸し切りのようなものですよ」
「贅沢ね。つい、追われている事を忘れそう……行きましょうか」
「はい」
敢えてセンナのどんよりとした空気をなかった事にし、改めて浴場へ進む。
せっかくローが彼女の滞在を認めてくれたのだから楽しく過ごしてもらいたかった。
リーシャは一つの椅子に座ると、一つ空けてセンナも座る。
やはり、お互い裸を見られるのは恥ずかしい。
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