05
目が覚めると船の揺れがおさまっている事に気付いた。
扉を開けようすれば外側から鍵がかけられていたので脱力する。
「また勝手に……もう」
誘拐紛いの出航をしたばかりの頃から町に着く度必ず鍵をかけていくのだ。
犯人は言わずもがなローなのだが理由は「逃げる」という行動を起こすかもしれない予防策らしい。
実際逃げた事はないが、逃げない選択肢だけを持っているわけではないから溜息を着かずにはいられない現状である。
「ローくんの馬鹿」
「何か言ったか?」
「!……帰ってきたの?」
扉が開く音に反応しながら尋ねると肯定の返事が返ってきた。
「だって鍵かけられて嬉しくなんてないから……あ!それっ」
「へェ、じゃあこれはいらねェな?」
ローは手に持っていた紙箱を揺らす。
リーシャは思わず目で追う。
彼が持っているものは多分スイーツの類。
ローも甘党派だがリーシャも甘いものは好きだ。
「ククッ……そんなに見つめるな、中のモンが溶ける」
「溶けませんっ」
恥ずかしくなり反論するとローは中身を出し始めた。
何を買ってきたのだろうと中を見るとシュークリームが鎮座していたので顔が緩んでいく。
まだノースの海域にいるので熱い季節の食べ物はない。
船長室にある小さなテーブルセットに置くとコーヒーと紅茶を入れた。
こうしてお茶をするのが楽しくて堪らない。
「美味しい……中、抹茶?珍しいね」
「そうだな、お前口に付いてるぞ」
「え、どこ?」
指摘された箇所を触ろうとするとかくばった手が視界を霞め口の端に触れた感触がした。
「取れた」
「あ、そっか……違っ、恥ずかしいんだけど……」
「ベッドには誘うくせに?」
「あれは、お昼寝しようって意味で……ちょっ!」
パクッとリーシャの頬から掬い取ったクリームを口に入れるローに赤面する。
彼は年下たが、こういった行為をされてしまえば関係なく羞恥心が湧く。
からかうのならもっとマシなからかい方をしてほしいものだ。
リーシャはむくれて横を向いた。
「年上をからかうなんて礼儀がなってないよ……!」
「一歳違うだけだろ」
「大きな差だよ。全くもう……」
「ククッ」
笑い声に真っ赤な頬が更に赤くなるとシュークリームを手で掴んで食べた。
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