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ペンギンに助けを求めようと視線を横に動かしたが、腹心はジッと立っているだけで微塵にも動く気配はない。
ローの言動を見守っているだけに思えた。
だとしたら、自分しか身動きの取れる制止役はいないのではないか。
「駄目だよ、ローくん。私達はあくまでも部外者なんだから……」
「ここまで踏み込んで部外者たァ贅沢だな。大体助けを求めてきたのはてめェらだろ?」
「誰も助けを求めてなどない。ましてや海賊に……」
「ほォ、シラを切るつもりか。女の方はお前とは意見が違う様だが?」
「………」
ローの言葉に俯いて答えないセンナ。
リーシャはピンときた。
彼女はエドと違いロー達に助けを求めて来たのだと。
「センナ……」
「私、海賊であっても……関係ないの。だって貴方達強いんでしょ?」
「迷惑な判断力だ。海賊に頼む事が何を意味するのか分かってんのか」
ローは口元を不機嫌に歪めて眉を顰(ひそめ)た。
センナは罪悪感からなのか、表情を曇らせリーシャに謝る。
騙したような真似をしたからというらしいが、別段怒る理由には感じない。
お節介気質だとよくローに言われるが、そうなのかもしれないと改めて思う。
助けた事を後悔する必要もなければ、怒りが湧くわけでもないのだし、と首を横に振る。
「センナさんは自分の気持ちを優先しただけなんですから、ね」
「リーシャさん……っ、本当に、ごめんなさい……貴女が“ナイチンゲール”だって分かっていたの」
「え?」
ナイチンゲールの名称が聞こえ首を傾げる。
名前は新聞にはあるが、顔写真を載せられるにはまだ至っていない筈だ。
やはり唯一の女だからかもしれない。
「ナイチンゲールは……そんなに有名なんですか?」
「ナイチンゲールを知らないのか?」
シャチは純粋に疑問に思ったようで一番に聞いてきた。
こくりと頷くとペンギンが不思議そうな声音で説明してくれる。
「今時ナイチンゲールの話しを知らない奴は珍しいな。ナイチンゲールというのは有名な本の主人公だ。“白衣の天使”と言われた女の看護の知識を心得た人物人生記なんだが、実在はしていない空想の人間だ」
「空想?」
リーシャの世界とは違う話しに疑問に思った。
自分の知っているナイチンゲールの物語は『実在』した人間の話の筈なのだが。
この世界では空想の人間なのだろうか。
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