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「じゃあリーシャ、動かずに待ってろよな」
「うん」
お手洗いの施設前でベポに釘を刺されはっきりと頷いた。
ドタドタと去っていく後ろ姿を見送ると耳が微かな悲鳴を拾う。
空耳には思えずに周りを見回すと少し進んだ場所に路地裏があったので、直感的にそこへ向かった。
路地裏をゆっくり覗いて見ると女性が隅にうずくまっている光景が目に入り、あまりの衝撃に思わず駆け寄った。
「大丈夫ですか!」
側まで近寄ると女性は震える身体を押さえたまま頭を上げた。
話を聞くにもこんな薄暗い場所では危険だと思い、彼女にベポが居るお手洗いの手前まで一緒に来てもらう。
向かう途中でベポがキョロキョロと首を動かしている様子が見えたので手を振る。
「ベポ、こっち」
「リーシャ!勝手にいなくなる……誰?」
「え、あっ。名前をまだ聞いていませんでしたね。私はリーシャです。貴女は……」
「センナ、です……あの、そこに居る熊……今、喋りました?」
怖ず怖ずと質問するセンナにリーシャとベポは困った表情を浮かべた。
取り敢えず今は違う場所に移動した方がいい、とベポが言うので頷く。
センナは躊躇する顔を浮かべながらも渋々付いてくる。
ローにきっと何か言われるだろうと考えながらコーヒー専門店に着いた。
センナが、こちらが驚く程入店する事を拒絶するのでベポにローを呼んでくるよう頼んだ。
「……今度も女か」
「うん」
前の、オレンジの町の少女を差している事が分かり肯定する。
溜息を付くかと思ったが、予想に反して彼は女性をジッと見た。
青白い顔色のセンナはローを怯えた目で見ている。
「付いてこい」
「え……」
センナは微かに目を見開くとローはリーシャに「こっちに来い」と言い歩き出す。
彼女をベポに任せ彼の隣に並ぶ。
無言でローがこちらを見るとリーシャはどう口を開けば良いのか迷う。
謝るべきなのだろうと口を開くと彼が先に喋り出す。
「あの女、相当な厄介事に足を突っ込んでるぞ」
「え、センナさんが?」
「ああ。俺達も巻き込まれるだろうな」
センナは一般人ではないということなのか。
リーシャはセンナを見遣り、またローに聞く。
「そんな危険な人には見えないけど……」
「ああいう奴程危険なんだよ」
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