58
リーシャが奇襲に合った島から出航して数週間が経過した。
次の島は寒い気候らしく空気も肌寒い。
少し乾燥している肌にレモネードを口から離して触る。
カサカサしているのでどうしようかと周りを見ていると、シャワーから出てきたローが上半身裸のまま現れた。
彼のお風呂上がりは特に珍しくもないので気にせずメイクボックスを開ける。
「化粧水でも付けるのか?」
「ううん。唇が乾燥してるからリップクリームを探してるの……えっと」
「乾燥?……ちょっと待ってろ」
「え?」
リーシャはメイクボックスから手を離しローを見ると、彼は机の引き出しからリップクリームを取り出すのが見えた。
こちらに向かってきたので首を傾げているとローはキャップを取り、リーシャの唇にスティックの先を当てがってきたので慌てて手を前に翳(かざ)す。
「それ、もしかしてローくんの?」
「ああ。そうだが?」
「わ、悪いよそんな……それに」
「へェ……意識してんのか?」
「あ、当たり前でしょ」
「裸見ても何とも思わねェくせになァ?」
「か……関係、ないって……それとこれは」
「関係あるだろ」
じりじりと詰め寄ってくる幼馴染みに後ろへ足を動かす。
また悪戯にからかうローが舞い降りたようだ。
「や、やめてよ……ローくん私、自分のがあるし」
「ここまできて止めらんねェ」
「ここまでって……!」
一体彼のどこにスイッチがあるのか分からないが、押してしまった事には変わりはない。
挙げ句の果てに追い詰められてしまった背中は壁に当たる。
「観念しろよ」
クツクツと笑うローに手を抑え込まれ唇にリップクリームが近付く。
ギュッと反射的に目を閉じれば、ふにっと少しねっとりした感触が唇の端から端まで滑る。
目を開けると至近距離にローが居たので驚いた。
「終わりだ」
「……もう」
「フフ……感想は?」
「乾燥ならマシになりました」
「そっちじゃねェよ」
最後の反抗とばかりにわざと意味合いを取り間違えると、彼は可笑しそうに笑みを浮かべてクローゼットへ向かった。
いつでも俺に言えよ?と言われたのでこれからは彼の前で乾燥した唇について話すのは止めようと思う。
からかうのは良いけれど、ローの場合はからかい方に問題があるので別なのだ。
しかし、そんな風に思うのとは別に仕方ないと許してしまう自分もいた。
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