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“ナイチンゲール”の名称の由来は知っているが、世間では自分がどのように思われているのか全く知らない。
いきなりそんな事を言われてもと困る。
しかし、医療の知識はあるので言う事を聞く。
少しでも危ない状況から脱出出来るのならと怪我人の男の状態を見る。
道具や必要な物がいると言ってみれば用意すると言われたので指示を出す。
もし男が助かったら自分はどうなるのだろうか。



「そこにある新しい包帯をお願いします」



熱い環境に汗が少し頬に伝う。



「……終わりました」



睡眠薬を最後に飲ませると、安静にするように怪我人に囁いた。
彼はずっと激痛に悩まされ痛みが和らいだからか、ありがとうと掠れた声で言われる。
思いがけない言葉に固まっていると、包帯を取ったりと治療を手伝っていた男にボスが呼んでいると言われ、付いて来るようにと案内された。
ツリーハウスとツリーハウスの間に大きな橋があり、そこを通ると一際異彩を放つ小屋に通される。
怖々と入口から入るとリーシャよりも倍の男が木で造られた椅子に座っていた。
この男がきっとボスだろう。



「うちのモンを診てくれたんだってなァ」



想像していたよりも迫力がある声音に頷く事しか出来なかった。
リーシャの顔が強張っている事を知っての上か、男は顎を摩ると上から下まで舐めるように見る。
不愉快この上ないが、震える足を押さえ込む事しか出来ない。



「俺はマッドニー。噂の“ナイチンゲール”は思っていたよりいい女だなァ?」



部下とは違い、この船長は相当性悪のようだ。
口元は上がったままでこっちに来いと言われ、もうお終いだと密かに隠し持っていたメスを触る。
人を刺す事は出来そうにないが、せめて脅す道具にしようと先程の医療道具から抜き取ってきたのだ。
手が震える感覚に一歩踏み出した。






「ボスー!!」



バン!と部屋に入り混んできた部下らしき男が狼狽した様子で早口に喋り出したのだが、あまりに慌てて話すからか聞き取れた言葉は「火事」だった。
リーシャの鼻にも徐々に煙の匂いが近付きツリーハウスの下の木から煙が立ち込め始める。
ギョッとしたのは全員同じで、ボスであるマッドニーが一目散に入口へ走った。
リーシャも騒ぎに乗じてツリーハウスを出ると煙が出ているわりに炎の気配がないことを不思議に思ったが、逃げ出す事が先決だと左右を見回した。




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