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リーシャが店に用があると二度目に敷居に入る事五分。
ローは眉間の皺が増えて不機嫌に立っていたし、かくいうシャチ達も少しずつ何かが可笑しいと思い始めていた。
ハートの海賊団を統べる器は、もう我慢出来ない様子で店に押しかけていく。
リーシャが怒るのではないかと思ったが、次に聞こえてきたのは罵声だった。
「あいつは何処だ!?」
ガシャン!と凄まじい物音に船員達は店に駆け込む。
「答えなかった場合は殺す」
「せ、船長っ」
「キャプテン落ち着いて!」
店主の胸倉を捩り掴むローが今にも相手を不能にさせそうな雰囲気に、周りは嫌な予感と憤りを覚えた。
ローはギリッと奥歯を噛み締めると胸倉を解放し再び男に質問したのだが、タバコを落としたまま放心状態でいる。
「お、俺は……ただ、脅されて……」
先程ローと何食わぬ顔で会話していた時とは印象が違う。
どうやら五千万の、目の前の長の殺気で意気消沈したようだ。
「リーシャは、どこに連れ去られた」
「この……村から、南に行くと、一際大きなツリーハウスが、ある……そこに」
「ベポ」
「アイアイキャプテン!」
ローの呼びかけにベポは何をするべきか瞬時に理解し、外へ飛び出し、次にペンギンが呼ばれ、顔を向けると彼は無表情で村人と取引をしてくるように言ってきた。
残りの船員達にも付近に待機しておくように命令するとローは刀を担ぎ直し、静かに扉を開く。
「今からオペの準備を始める。お前ら、手を出すなよ」
船員達は一人残らず頷くと船長の後に続く。
(アイツらも終わったな)
一つの海賊団が消える行く末は、最早誰にも止められない。
***
目を覚ますと、周りをガタイの良い男達に囲まれている事を知り、冷や汗と恐怖に身体が震えたが、リーシャが考える事よりも男達は自分に「仲間を治療しろ」と要求してきた。
ツリーハウスと思われる小屋に木の葉のベッドで唸り声を上げている男がお腹に包帯をしている状態で横になっていたので半分は理解できた。
だが、何故自分なのかが分からない。
村の医療技術でもってしても駄目なのだろうかと疑問に思う。
「何で、私を……連れて来たんですか」
「お前、ハートの海賊団の“ナイチンゲール”だろ?」
「……!」
「女はお前一人だけのようだったみてェだしな」
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