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次に停泊した島は夏島だったが、夏島と言っても蒸し暑いわけではなく、秋の風を少し吹かせた気温だったので、冬島出身の自分達にも比較的過ごし易(やす)い場所だった。
上陸間近でテンションが高い船員達を率いてローが指示を出す。
今回も島の上陸を許可されたので一安心したが、いつまで続くか分からない言葉に頭を悩ませた。
例によってローに先導され、手を引かれて島に入るハートの一行。
先ず思った事はどこか淋しく吹き荒れる森で、ざわざわと揺れる様はまるで入るなと言っているみたいで、不吉な予感を覚えた。
ローに大丈夫なのだろうかと話すと、彼はニヤリと笑うだけで足を動かす。
海賊は冒険好きと言うのは過言ではないと改めて思い知る。
森に入ると上にツリーハウスが見えたので人が居る事に一先ず安堵した。
地面の方にも家があるのだが人が一人も居ない。
と、いうより。
「もしかして、私達警戒されてる?」
「よくある事だ。海賊は歓迎されねェからな」
ローは周りをのろりと見回すと一軒の看板を見つける。
「雑貨屋……必需品を買うぞ」
ローは船員達に伝えるとお店の扉を開いた。
『CLOSE』と看板が掛けられていたのに。
店の奥を見ると店主らしき男がタバコを吹かして新聞を読んでいた。
「うちにはもう売るもんはねーよ」
「何?」
「どこにもねェから諦めてさっさと違う島に行きな」
ローに臆することなく喋り続ける男に質問した。
「薬も売っていないんですか?」
「あん?……女か。そうだ、一つ残らず強奪されたよ」
「誰に強奪された」
ローが続いて質問すると男は溜息を付いて新聞のページを捲(めく)る。
「海賊」
「成る程な。帰るぞ」
「え、ローくん?」
リーシャの腕を褐色の腕が引き返すように引っ張るので、思わず足を止める。
ローは向き直ると少しだけ説明してくれた。
「この島は海賊に占拠されてる」
「占拠?」
「早めに事を終わらせねェと面倒なことに巻き込まれるだろうな」
ローはそう口にすると二度の歩行を開始したので、リーシャは呆けながら付いて行くしかなかった。
店から出るとある事を思い出し彼に待っていて欲しいと頼む。
すぐに戻ると言えば承諾してくれたので店に引き返すと先程の店主へと向かう。
「あの−−ん!?」
声を掛けようとした時に、突然後ろから何者かに拘束され口を塞がれた。
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