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船員達が船内で過ごす理由は船が現在、深海に潜っているからである。
当然釣りや手合わせが出来るわけなく、代わりに一室が語り草の場になるのは致し方ない事だろう。
今回の語りを開くのは白熊にして古株であるベポ。
何と言っても、彼の話の内容は毎回気になるのだ。
「ベポ。また二人の話してくれよ」
「いいぞ。丁度話そうと思ってたところだしな」
シャチがベポに頼む姿を見て船員達もここぞとばかりに耳を傾ける。
自分達が尊敬し愛する(船長の器的な意味で)トラファルガー・ローの事をよく知る一人なのだから。
彼は腕を組んで自慢げに胸を張ると口を開いた。
「あれはキャプテンがリーシャを船に乗せた時の話だ。後から本人に聞いたんだけどな、自分の意思で乗船したわけじゃなかったみたいで、リーシャが怒って暫くはキャプテンに口を聞かなかったんだ」
「ほー、あのリーシャさんが、ねェ……」
「当たり前じゃね?」
船員達は意見を言い合うが、ペンギンも同じ事を思った。
「それはキャプテンも相当堪えたみたいでな」
「あ、あ〜……だろな……」
当たり前だろうと皆が思った事だろう。
しかし、ローが落ち込む姿は想像し難しい。
「おい」
「あ、キャプテン」
いつの間にか真後ろにいた我等が船長に一同は冷や汗や気まずさを覚える。
「どえェェ!せ、船長!」
「ベポ、何でこいつらにばらしてんだ」
ローは怪訝な顔でベポを見ると白熊はけろりと言った。
「だってリーシャが私の代わりに鬱憤を晴らしといてって、許可もらった」
暫しの沈黙。
ローは先程より不機嫌になったように思える。
「反抗されてるのか?」
過去の話を今更ほじくり返すことを彼女がするとはローも思わないのか確認してきた。
誰もが口を閉じ首を振る。
例え反抗されていると知っていても敢えて口にする勇者はいない。
ローは考えに浸るように目を細めた。
「今更だしな」
ローの言葉にペンギンやベポも頷かざるおえないが、それでは彼女が可哀相に思え、せめて何かするだとかそんな考えが過ぎり諦めた。
ローと彼女には船員達や自分には分からない何かが確かにあるように思えたのだ。
ローがリーシャを手放す事をしないのも、彼女が船長を嫌いにならない事を含めて。
そう完結させるとペンギンは一人「平和だな」と呟いた。
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