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春島のログは一日で溜まるという事だったので書き変えられないうちに船は出航した。
クークーとカモメが何匹も飛んでいるのを洗濯物を干しながら見る。
ベポがすぐ近くでお昼寝をしていて、ローがそのお腹の横に胡座をかいて座っているので、自然と船員達も近くで思い思いに過ごしていた。
その時、ザバァン!と水飛沫(みずしぶき)がリーシャの目に入り、ローの声と船員達の狼狽した声に海王類が水面から現れたのだと理解する。
「リーシャ、こっちに来い!」
「あ……!」
ローに後ろから肩を捕まれ後ろに引かれる。
今まで海王類は捌かれた物や人間の三倍程のものしか見た事がなかったのだが、たった今目に写っているのは船よりも二倍は大きい生物だ。
初めての巨大さに足が震えて声がまともに出ない。
恐怖だけが頭を支配する中、ローが素早く前に飛び出す姿が見え、海王類が牙を向いて幼なじみを今にも襲い掛かろうとしている事に悲鳴を上げた。
「ローくん!!」
彼は目で大丈夫だと言い、手を動かした。
「“ROOM”」
呪文のような言葉は一度聞いた事があった。
青白いサークルが現れるとたちまち船や海王類を覆う。
彼は刀の鞘をすらりと抜くと相手に向かって切るように空気を切り払った。
(えっ……!?)
すると、どうだろうか。
海王類がバラバラになり、リーシャは口に手を当て唖然とするが船員達は見慣れた光景なのか歓声を上げていた。
「あはは!船長暴れちゃってるぜ」
「最近戦闘がないからなー」
こちらは肝を冷やす思いで見ていたのにと、今だドキドキと心臓が激しく鳴るのを感じていると、ローが敵を切り終わったのか刀をしまいリーシャの目の前に立つ。
「これが俺の道だ」
「………」
ローは前に、リーシャをこれからも怖がらせてしまうと言っていた事を思い出す。
想像を超えた日常は確かに自分には辛いだろう。
「ローくん」
「……なんだ」
「怖くないって、言ったら……嘘になる……けど」
ローが真っ直ぐリーシャを見るから、自分も彼から目を反らすわけにはいかないし、自分が出来る事は限られている。
「今のは、凄くかっこよかったよ。ロー」
「……!−−今」
「あっ、洗濯物が散らばってる!さっき私が驚いた拍子に蹴ったのかな?服洗い直しだね、ごめんなさい皆」
「いーって!」
「そうですよ!」
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