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シャチも同様に、口説き落とす口実を勉強する為に情報を予め掴んでおくのだと前に本人が仲間達に語っているのを聞いた事がある。
苦笑しながら相槌を打つ。
「お客様、当店では……そ、そのような、高級食材は……扱ってお−−」
「君は私に何を言おうとしているのかね?」
不意に、賑わうレストラン内の声が聞こえてきた。
その場所に目を止めると、顔を蒼白にしたエプロン姿の店員といかにもな正装をした中年男性が座っていたので、何かマズい事態にあるのかと感じ様子を見ていると店員が何度も頭を下げていた。
リーシャは不安になりローを見遣ると彼は無表情で目を閉じていたので驚く。
平然とした態度に今度はどうすればよいのかとオロオロする。
(皆目を反らしてる……)
現実的な現状に気持ちが沈み胸に痛みが走る。
弱者と強者の違いを実感させられたのは初めてではないが、苦しみは変わらない。
その時、注文したものがテーブルに運ばれてきた。
ローは目を開けると無言で手を動かすが、リーシャはどうにも食欲が出ないので俯く。
「熱いうちに食べとけ」
「う、ん」
「リーシャ」
「うん」
「こっち向け」
「え……んぐ……!」
突然、目の前にスプーンが見え口に押し込まれた。
チキンライスの風味が口の中で広がる。
目をしばたかせてローを見ると、彼は手の甲を顎に乗せて笑みを浮かべていた。
「上手いか」
「……うん。チキンライスの、味がする……」
「そりゃあ良かった」
クッと笑う彼にリーシャは言いたい事があったが、その言葉は恐らく人間が根付いた歴史による問題であるのだと気付き喉に押し込めた。
ローに言っても変わらない。
それはリーシャの我が儘な質問を止めさせるには十分だ。
自分だって何一つ変えられないくせに、とんだお門違いだと思い知る。
再び口にチキンライスを入れられ困るしかない。
リーシャもお返しとばかりにビーフシチューをローに渡す。
半分くらいは食べても構わない気持ちで渡したのに彼は「食べさせてくれないのか」と言ってきたので固まっていた頬がつい緩んだ。
店から出るとリーシャはちらっと後ろを振り返る。
ローはまた無言で手を繋ぎ引っ張ってきた。
後ろ髪を引かれる思いで道を進むと前から人が走ってきたので二人は避ける。
「泥棒だああ!」
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