48
人が多く集まる場所に来ると近くでざわめきが上がった。
何か催しでもあるのかと様子を窺ってみるとローが呟く。
「手品か?」
「見ていこうよ」
「胡散臭そうな眼鏡をかけてやがる」
「胡散臭い?」
ローとリーシャは近くまで行くと上を見上げた。
「……!?」
(あのサングラス!!)
星型のサングラスに帽子を被り、手には小銭らしきものが糸でぶら下げられている姿。
リーシャはあまりに印象的な人物に目を疑う。
名前は忘れたが見覚えがある男だ。
「今から催眠術をかける。一、二のジャンゴ……グー……」
男が己の催眠術に掛かる姿は民衆を爆笑させた。
ローも怪訝な表情で見ている。
リーシャだけは頭が混乱して笑うどころの心境ではなかった。
「行くか」
「うん……」
(気になるけど)
これ以上の干渉は止めておいた方が良いだろうと観衆を縫って進む。
ローは既に興味がないらしく、後ろを見る様子はなかった。
クレープを少し食べたところで彼が何も口にしていない事に気付き、それを進めてみる。
「いいのか」
「甘いものは分け合わないと私が落ち着かないしね」
「ククク……」
ローは笑うとクレープを食べた。
口の端に付いたクリームを指で取り舐め取る。
その瞬間、周りから息を詰めるような声が聞こえた気がしたが空耳だろうと思った。
「美味いな」
「ね」
同意を述べるとローが耐え切れない様子で声を出して、くつりと笑う。
「?……美味しくてもっと食べたくなったの?」
「いや?」
ローは首を振ると前を向く。
数分周りを見ながらウインドショッピングをする。
何度もローに「買うか?」と聞かれたが断った。
程なくして休憩場所にレストランへ入る。
「どれにしようかなぁ」
「魚はいつも食ってるしな」
「ふふ……そうだね。あ、ビーフシチューいいかも」
「チキンライス」
店員を手振りで呼び止め注文する。
「楽しみだね」
「いつも同じ事言ってるぞ。それより、食べた後はどこに行くか決めとけ」
「どこに何があるかは知らないし……」
「この春島は花が咲く場所が有名だと」
「ペンギンくんからの情報?」
「シャチだ」
「シャチくん?」
「バンダナも言ってたな」
バンダナは良く女の子を口説きに行くのでデートスポットを事前に調べるらしい。
[ back ] bkm