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船は着々と進んでいき、大きな町がある島へと着いた。
貴族も数多く住んでいる場所もある為、船長のローから上陸前に注意事項が説明されると船員達はわらわらと散らばっていく。
リーシャも今回は連れていってもらえるようだ。
前の喧嘩が堪えたのだろうかと内心クスリと笑う。
ローは普段から着ているパーカーにジーンズの格好で町に行くそうだ。
リーシャはせっかくの機会に、随分前に買った服を着る事にした。
いつもは楽な服なのだが、今回はシフォンのスカートと春用のカーディガンでふんわりとしたコーディネート。
今居る島も春島なので季節感は大丈夫だろう。
春島と言っても桜は咲いていないらしい。
ペンギンが何かの紙を見ながら言っていたのを思い出す。
「ローくん、お待たせ」
「あァ……お前、それ」
「ちょっとお洒落してみたんだけど……どうかな?」
服装に合わせて髪も一つに纏めて、ダンゴの形にして片方に寄せたのだ。
リーシャを見るローは珍しそうに上から下まで見るとニヤッと笑みを浮かべた。
「いつも上陸するときはそういう姿にしろよ」
「そうだね。私も楽しいし、頑張ってみようかな」
後押しに嬉しくなり頷く。
ローは行くか、と手を差し出してきたので少し驚いた。
いいのかと聞くと「俺も男だからな」と返されたので少し笑って浅黒い手を取る。
靴はヒールではないから歩きやすいが、せっかく彼が気遣かってくれているので気分はとても良かった。
ローも上機嫌な顔に見えたのでこちらとしても安心して歩ける。
「デートしてるみたい。あ、した事はないんだけどね……デートってどんなことをするかローくんは知ってる?」
「あ?……手を繋ぐとか、買い物に行く。何かを食べながら歩く」
ローは一通り述べると向こうで何かを見つけたようでリーシャへ聞いてきた。
「クレープ食うか」
「え?」
「デートってやつをしてみたいんだろ?」
「いいの?何気なく言っただけだよ?」
「何事も楽しむのが海賊だからな」
ローの言葉にリーシャは、ややあって成る程と納得した。
海賊と関係がない事も楽しめという事だろう。
彼は再び前に視線を戻すと前方に微かに見える屋台へと歩き出す。
よく見つけられたと思いながら他意のない発言でローが動いてくれる事に頼もしくも、嬉しくも感じた。
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