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リーシャは揺れる波を眺めながら甲板の端にもたれ掛けていた。
この前、一人の少女から得たモンキー・D・ルフィの情報を整理する為に。
まさかのまさかで既に一億ベリーを越えていたとは驚きだった。
つまり、クロコダイルを倒したということだ。
新聞は既に破棄されていたので詳細は朧げであまり覚えていないが。
他にどんなストーリーがあったかと思い出そうと頭を捻る。
(確か、うーん……ニコ・ロビンって人はもう仲間に入ってたかなぁ?)
もうあまり記憶が残っていない事に言い知れぬ感情が悔しさに変わる。
思い出せそうで思い出せないもどかしさとでも言えようか。
それに己自身の事も少し気掛かりだった。
“ナイチンゲール”と名前が出ている中でリーシャの顔は出ていないが、不安要素ではある。
ローはその事について深く教えてくれないのだから困り者だ。
と、地平線を見つめていると靴音が聞こえてきた。
「ここにいたのか」
「うん……」
いつもより生返事なリーシャに彼はさぞや不審に思った事だろう。
「具合でも悪いのか」
「悪くないよ……ただ、海を見てただけ……癒されるでしょ?」
「癒し効果を実感した覚えはねェな……」
「ふふっ。高揚感ならある?」
「クッ……ああ。あるな」
冒険に目を輝かせる少年が脳裏に浮かぶ。
「隣に来る?」
「いいのか、ベポの方がずっと癒し効果があるぞ?」
「え?あははっ……じゃあ今日はローくんに癒し代理をしてもらおうかな」
ふざけ合いながらも隣に座り込むロー。
刀を肩にかける姿は船長の器だ。
リーシャは太陽の暖かさにうとうとと眠気を感じて彼の肩に頭を預ける。
「こういう、航海も……悪くないね……」
「へェ。今までは悪かったのか?」
「んー、どうだろう……ローくんが意地悪言うから答えな……い……」
睡魔に抗えず、途中の言葉まで曖昧なものになりながら意識が途切れた。
そんな彼女の髪を愛おしげに撫で、帽子を被せた男。
「いつまで隠し通せるんだろうな」
ナイチンゲールの名称はバレてしまった事でモンキー・D・ルフィについて隠し通せなくなる日は近いだろう。
名前は知られたとしても問題ではないのかもしれない。
たが、彼女が執着する人間について簡単に何もかも教える必要性はないと思った。
ある種の執着の底知れぬものはローですら、どうにも出来ないのだから。
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