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リーシャが手配書を探しに来た時は内心焦った。
新聞から手早く抜き取ったのだが、何故あると思えたのか不思議だった。
それでもペンギンはない、と嘘を言い貫けばリーシャは本当に残念そうに部屋から出ていくのを見送り、安堵の息をひっそりとつく。
一日が無事に終わる事を願いながら夜を迎えた時には雨も止んでいたので、船は浮上して甲板も解放された。
元々潜水艦なので甲板は濡れても支障はない。
その前にローの機嫌がいつもより数倍悪い事の方が気掛かりだろう。



「船長」

「あいつ、とうとう聞いてきやがった」



主語がなかったが、それだけで理解するには十分だった。



「俺の所にも来ましたよ」

「いつまで隠し通せるんだろうな」



ローは自嘲気味に笑う。
微かに情緒不安定な傾向が見られた。








***








星が綺麗な夜は嫌いだ。
リーシャはいつも星がよく見える日には空を見上げている。
何を見ているのかわからなくなる横顔に言い知れない感情が湧いてくるのは、ローが彼女とあの約束をした日を今でも覚えているから。
あの日、確かにリーシャはどこへも行かないと言った。
もちろん震える身体に嘘だと感じたが、指摘する勇気などない。
幼かった自分もリーシャも、成長した今でも、彼女は例外なく空を見る。
見て欲しくなどないのに。
星を見ているというより空の向こうを見ているように思えた。
やはり昔からそれを見る度に彼女が幻影のように消えてしまうのではないかと怖くなる。
怯えている自分に更に怯えてしまう。
消えるなと強く思う度、どうしようもなく胸に痛みが伴った。
もう見て欲しくなくてローはリーシャの名を呼んだ。



「リーシャ」

「ん?あ、ローくん。いつから居たの?」

「今さっきだ。それよりこんな夜に外に出るな。海王類が出てくる」

「うん、わかった」

「……!」

「え、ローくん?」



ローを通り抜けて扉に向かう彼女に後ろから抱き着いたのは情緒不安定な証拠だ。
戸惑う様子のないリーシャに腕の力を込める。
肩に顔を埋めて見られないようにした。
情けない行動に走った自分を彼女は突っぱねる事をしない。
優しい分、やるせない思いが胸を覆う。
どこにも行くな、と口に出来ない自分はどんな人間よりも愚か者だろう。







こんなにも感情を掻き乱しているくせに心臓は役立たずだ




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