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23



薄暗くあまり日光の当たらない通路を歩くと人影が見えた。
この男も体格がよくニタリとよろしくない笑みを浮かべている。
嫌な予感がして後退っていると相手はリーシャに手を伸ばしてきた。
恐怖に足がすくむのを感じ、息を呑む。









「薄汚ェ手で……俺のもんに触るな」

「っ、ローくん!」



向こう側に顔を向けると壁に寄り添ったローがいた。
口元を歪めて狂気を滲ませる声音に相手は身じろぐ。
その隙にリーシャは彼に駆け寄り胸に飛び込んだ。
グッと体を抱え込まれ安心感に包まれた。
自分の身体が震えている事に気が付いたが、それより先にローが動く。



「……!――気を楽にしろ」



ブゥーンと透明な青いサークルが出現した。
ローは目を閉じていろと言い、片腕でリーシャの顔を自らの胸に押し付け視界をシャットアウト。
腕を頭に回され聴覚も塞がれたので何が起こっているのかを知る事は許されなかった。
唯一、刀を振り下ろす振動だけは感じとれた。
暫くすると聴覚も視覚も解放されたがローはこちらを見たまま歩けと言うだけ。
後ろを振り返る事は出来たけれど、ローの表情がそれをさせなかった。
しかし、彼はリーシャを助けてくれたのだしと自己完結する。
とにかく男の脅威はなくなった事は理解できた。
手首を掴まれたまま待合室に連れていかれると開口一番に頭を下げた。



「ごめんなさい……」

「何故謝る」

「迷惑かけちゃったし、私弱いし……」

「弱いのは関係ねェだろ。そもそも先に手を出してきたのはあっちからだ」

「……私、襲われかけた、んだよね?」

「あともう少しでな」



彼の目から怒りを感じたので恐縮する。
リーシャのせいで彼に手間をかけさせてしまった。
それが申し訳なくて俯く。
すると軽く物音がしたと思えばローがリーシャの目の前にいた。
首を傾げて見上げれば逆光を受けて立つ姿が写る。



「迷惑なんていつ言った。お前の迷惑は迷惑のうちに入らねェ」



グイッと顔を指先で上に向かされ言い聞かせるように真っ直ぐ見つめられる。
彼の、心臓をストレートに叩く言葉に船員達の忠誠心の源が窺い知れた気がした。
確かにこれはじんわりと来るものがある。
リーシャは薄く張る涙の膜を感じながら必死に隠そうとした。
さっきは本当に怖かったし、もしローが来てくれなかったらと考えると恐ろしくて震えが止まらない。




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