7.5
リーシャはローに、顔洗ってきた?とごく自然に聞く。
「別に後で洗う」
まだ、とろんとした瞳でリーシャを見るロー。
リーシャは苦笑いしながらそうだね、と頷く。
「て、和まないでくださいよっ!!」
「あ゙?」
「すいませんでした」
シャチがリーシャとローのやり取りにツッこめば、すかさずローの睨む攻撃に謝罪する。
落ち込むシャチは、改めて経緯を説明した。
「釣りをしてたら、大物が掛かった!と思って引っ張り上げたんです」
「おれもいたよ」
「ベポが証人だよな」
「うん。そしたらね、女の子が釣れたんだ」
「ベポが言うならそうなんだろうな」
「俺の言葉は無意味なのかぁ!?」
ペンギンの言葉にシャチが絶望感に浸っていればローが口を開く。
「で、その女はどこだ」
「あ、ここにいます」
シャチの言葉に集まっていた船員達が横に並び、一本後ろへ下がる。
「えっ、本当に女の子がいる!」
「もっと早く言え」
「俺最初に言ったよな!?」
シャチを虐めるペンギンを尻目に、ローは無言で甲板に横になっている女性へと近づく。
その行動に気がついたリーシャが足早にローへ駆け寄る。
「ローくん、その人助けてくれるよね?」
「……さァ、どうするかな」
「駄目なの?」
ローを見るリーシャ。
彼はこちらを見て、ニヤリと笑う。
「ローって呼べば助けてやらねェこともないなァ」
出た、とリーシャは思った。
ローはリーシャが何か頼んだりするときなど、絶対条件付きで取引してくるのだ。
その内容がほとんど「ロー」呼びだったりする。
一体どうしてそこまでこだわるのか分からず頭を悩ませる。
どっちだと選択を催促してくるローに焦った。
拒否すれば倒れている人が助けられない。
「今は、皆いるし……部屋じゃ駄目?」
恥ずかしくなり俯いてローを見上げると彼は上機嫌に頷いた。
彼女は無事医務室に連れていかれリーシャも付いて行く。
ローも船医なので治療を施す。
自分も手伝える範囲で動いた。
幸運にも海王類には目をつけられなかったようでかすり傷程度だ。
ローはガーゼを貼り終わると椅子に座った。
コーヒーを入れて机に乗せればいきなり手を引かれ視界に彼が入る。
代わりに椅子に座らされたのだろう。
理解するとコーヒーを口に付けながら先程の呼び方を強要された。
「一回だけだからね……ロー」
「ずっと言えよ」
「無理だってば、ローくん。私はローくんって方がローくんらしいと思ってるから」
「なんだよそれ」
フ、と笑う口元が目の前に来た。
椅子がギギ、と軋み後ろに体がのけ反る。
吐息が鼻に当たり目を見開く。
時々ある“熱を含む視線”だ。
その度に心臓の音が耳に伝わるくらい周りが静かになる。
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