09
「お前がせっかく治療したしな……あれは特別待遇だ」
ローがこちらを見ながら言うとリーシャは「ありがとう」ともう一度感謝した。
照れたのか何も言わない彼を密かに笑うのはいつもの事だ。
年下年上を否定するが、やはりローは年下だと思う。
つい手が帽子越しに頭を撫でる。
振り払われるかと思ったが彼は驚いた顔をしただけで拒否をしなかった。
可愛いと内心感じ、笑う。
「子ども扱いするな」
「してないよ」
こちらを睨む勢いで見遣るロー。
微笑んで受け流す。
リーシャは撫で終えるとソファに座り直した。
海賊船とは思えない造りの船の構造はホテルに居るかのよう。
しかも潜水艇なので夜などは水中の世界が綺麗で今でも飽きる事はない。
戦闘ですらちゃんと見たこともないのだから現在であっても海の賊の一部だとあまりピンと来ないのだ。
(そもそも……私は海賊なのかな?)
「ねぇローくん」
「あ?」
「私は捕虜?」
「は?何寝ぼけた事言ってやがる」
「だって、私……船に乗らないって言ったんだし」
「俺が乗せたんだからお前もハートの海賊団だ」
その発言は納得するしかないとしてもリーシャはお荷物にしか成り得ないと思う。
大した力もない。
自分が他の人間と違うのは異世界人だという事だけだ。
それと記憶。
ローにはまだ言えない秘密は内に秘めたまま。
「これからも余計な事は考えなくていい。それより腹が減ったから食いに行くぞ」
本を閉じて立ち上がるローに続く。
ちらりと部屋にある窓を見ると太陽が真上に浮かんでいたのでもう昼時だと知る。
食堂に向かうといつもより騒がしい声が向こうから聞こえてきた。
ライラが居るのだろうとすぐにわかったので苦笑する。
船員達は紅一点のリーシャ以外の女性がいない分、恐らくテンションが上がっているのだろう。
ローも呆れた表情で扉を開けた。
ガヤガヤとする食堂の真ん中ら辺にライラは居て、船員達に囲まれて質問攻めに合っているようだ。
ロー達に気付いたライラが少し安心したように笑いかけたのは見間違いではないだろう。
「お前ら、モノは順序ってもんを知らねェのか」
(ローくんも人のこと言えないような……)
海賊船に強制的にリーシャを乗せた張本人が言えた義理はない筈だが船員達は一気にライラから距離を保った。
さすがは船長といったところか。
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