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ぽかんとしていると今度は少し強く手を握られた。
「何ボーッとしてる。行くぞ」
「あ、あ……うんっ」
嬉しくなってギュッと握れば、更に強く握ってくる褐色の手に、もう頬どころか顔全体が緩む。
沸き上がる感情を惜しみ無く表に出して入れば、会場の入口が見え扉が開く。
「っ……わぁ!」
シャンデリアが煌めき、陽気で上品な音楽に合わせて優雅に踊る人。
思わず感嘆が漏れるのを感じると、入口の端に自然と目線が行く。
「あ、皆……やっぱりいつもと雰囲気が違うね」
「そりゃな。正装してっし」
「リーシャもよく似合ってる」
シャチとペンギンはいつもの帽子を被っていない。
「着れて良かったな!」
ベポが自分のように喜んでくれている様子にリーシャはハッとする。
(もしかして……ベポが?)
イースター・エッグ祭の事を知っているのはベポしかおらず、またその口ぶりからローに何かを言ったのだと勘が働く。
そうだとしたら−−リーシャは沸き上がる喜びにグッと手を固く握る。
家族であるベポに気を遣わせた事は申し訳ないが、優しい思いやりをひしひしと感じて、胸がじんわりと暖かくなった。
ローに手を引かれ、もう少し奥へ進むと、丁度音楽が変わり周りがパートナー同士で踊り始める。
その時、腰に逞しい腕が回され目を見開いて相手を見た。
ローはニヤリと不適に笑い、クルリとリーシャの身体を回す。
「踊る為に来たんだろ?相手してやる」
当たり前の様に足を動かすローにリーシャもステップを踏む。
舞踏会の踊りなどノース祭以来だ。
この祭の会場を用意したのが、あの『ビアン・レクイエ』ということで開始されてから程なく、正面奥の中心の台に主催者が現れた。
『皆様、今日は私の城へようこそお越し下さいました。どうか楽しんでいってください』
貴族という階級を思わせる上品さや仕草に拍手が起こる。
悪い噂とは逆の顔にどう反応すればいいのか考えていれば、ローが腰を抱き寄せリーシャの耳に顔を近付けた。
「楽しめ。どうせならな」
「!……うん」
どうして彼はこうも自分の考えている事の答えをくれるのだろうか。
そうして平穏が平穏でなくなる音がもうすぐそこに近付いているとは知らず
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