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イースター・エッグ祭の当日。
ローは朝の食堂という、船員達が揃う場所で泰然と言い放った。
「今日はイースター・エッグ祭に見張り以外全員参加するぞ」
「……え?」
「船長……それは」
「絶対参加だ」
リーシャが口を開いたと同時にペンギンが何かを言いかければ、ローは言葉を遮って断言した。
これまで祭の行事に興味を示したことがないのに、どういう風の吹きまわしだろう。
船員達も同じことを考えているだろうに、敢えてそれを理解している様子の船長に彼等の返事は一つだけだった。
町に降り立ったハートの海賊団一行は早速正装が貸し出される場所まで赴いた。
海賊でも歓迎される島のようで、嫌な顔一つされることなく、フットマンらしき男性が試着室まで全員を案内する。
「女性の方はそちらの者に案内をさせますので、皆様はこちらに」
フットマンはリーシャに女性の人を紹介してロー達を試着室に誘導した。
こちらを見て「また後でな」と手を振ったベポに振り返して、案内人に付いていく。
女性専用と書かれた札が壁に付いている一室に通されると、数人の女性達が彩りに溢れ、きらびやかなドレスを手に取り喋り合っていた。
少人数なのでリーシャが部屋に入ると全員がこちらを見詰める。
「貴女もイースター・エッグ祭のドレスを選びに来たのね」
黒い髪を後ろの首の位置に一つにまとめた一人の女性が近付いてきた。
返事を返すと興奮したようにドレスは沢山あるから迷うのだと説明してくれる。
手を引かれてズラリと並ぶドレスの前に連れて行かれて、本当に色んな衣装がある事に感嘆の声を漏らした。
隣に居る女性もクスリと笑みを浮かべて共感する。
「ね?凄いでしょ。私、レイア」
「あ、リーシャです。初めまして」
お互い名前を言い合い、再びドレスに盛り上がる。
やっと決めた頃には一時間程経っていたので、急いでロー達の居るであろう場所に向かった。
(きっと怒ってるかも……)
内心、罪悪感に押されながら試着室のある建物のロビーへ行けば、見慣れない姿の幼馴染みが居た。
「!−−ローくん?」
「フフ。第一声がそれかよ」
「だって、さ」
「俺も驚いたけどな。似合ってる、そのドレス」
褒めてもらえた事に照れて、つい俯くと視界に刺青が入った手が写る。
前を見ると口元をいつもの様にニヒルに上げたロー。
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