06
プレゼントはロシナンテの指南を受けて、シンプルに食べ物にした。
特別でもなんでもない市販のものだ。
ありふれていると被らないだろうというアドバイス。
予定通り目立つこと無くソッと近くにおいておいた。
あとでじっくり開けていくのだろう。
そういうのも知らないけど、想像だ。
別に本人の開け方とか知らないもん。
ロシナンテだって知らないって言ってた。
「カンパーイ」
お酒もかなり入ってきて酔っ払い増量中。
ロシナンテもいつもより遠慮なく飲んでいる。
本人的にハメを外しているようで。
ローも既に前からお酒を飲んでいるので、飲み慣れた様子でお酒を飲んでいる。
囲まれている姿は船長だ。
もうすっかり海賊だった。
何故まだ動かないのかは知らないけど。
なにか頭の中に計画書でも作成されていると予測する。
カンだが。
少しずつフラフラになっていく大人達。
介抱は嫌なので自室に戻った。
あれは服を盛大に汚されて二度とやりたかない。
私室にて本を熟読しているとドアが開く。
年々遠慮無い空け方になっている。
ここは乙女の部屋ということを君は忘れているのかな?
「入るぞ」
今更遅っ。
既に扉を過ぎてるよ。
入るぞと来たのはローだった。
宴の主役がここに来てどうしたのだ。
彼らは主役無しでもう飲んで、気にしないのだろうね。
気付いてない人すら居ないかも。
「どうしたの?皆ローくんを待ってるんじゃない?」
「ただの飲酒だろ、もうあれは」
確かに。
いつもよりランク高い酒とかあるから、余計に楽しいだろう。
「座るぞ」
側にある椅子に座る。
慣れたようで、慣れてない。
滅多にこの部屋に来ないもん。
逆に、ローの部屋に行くことが多い。
「どーぞどーぞ」
「旅に出るのか」
「そうだねぇ、そろそろ飛びたいなー」
スライムでふよふよするのが好きである。
想像したら楽しくなってきた。
スライムになってあとで飛び跳ねよう。
「また違うことを考えているな」
「え、すごい、よく分かったね」
「そんな顔をしてたらだれだって分かるだろ」
呆れた顔をした男は、まだ速るな、と笑みも浮かべる。
「今日は皆、浮かれてたな」
「ローくんだって嬉しかったでしょぉ」
くすくす、と笑う。
「そろそろ、その、くんって奴をやめろ」
「んー?」
大人になるとそういうの気になってくるのかな。
ローくんは昔からそう呼んでいたから、今更変更出来ないって。
苦笑。
「なんて呼んで欲しいの?」
「ロー、と」
「船長で良いんじゃない?」
「それだけは嫌だ」
いきなりわがままになった。
「じゃ、ローくんで」
「仕方ないな」
「仕方ないなって……!」
吹き出した。
「まだ行くな。命令だ」
さっき、船長と呼ぶなと言ったのに。
でも、その願いは叶えたい。
***
只今、ハートの海賊団を離れて違う島に居る。
本当はずっと居たのだ。
島に付いたらスライムにて日向ぼっこをしていたのに、いつの間にか海に落ちたらしく、何故か知らない島に流れ着いていた。
助かったのはスライムだったからだろう。
「可愛い……可愛いな」
ぷにっと揺れる体で答える。
「よしよし、これをやったのは秘密だからな」
お菓子を上げすぎては駄目だと言われているのを破ってまで、くれるお茶目な人にぷるっと震える。
「甘いから喜ぶよな」
お菓子を近づけてくるので消化する。
可愛い、と顔を緩めて体をぷにぷにする。
このぽにぽにボディーがかなり好きみたい。
ドレーク船長は。
彼は海賊らしく、海賊団を率いる人だ。
その割に、なーんか可笑しい。
特に会話。
海賊の会話というか、社会人の会話とっていうか。
「ドレークさん。この書類の確認をお願いします」
「!……ああ、やっておこう」
お菓子をあげている場面をササッと隠す。
誰か知らない無名の人だけど、可愛いと可愛がってくれている。
激甘だ。
ここに住みたくなるくらい、激甘だ。
欠点は人間に戻れないことだから居られないけど。
一番のデメリットだな。
「癒やされる」
ため息を吐きながら言うので、かなり好みっぽい。
かれこれ5日程保護されている。
肌見放さずな状態だ。
流石にちょっと苦しい。
そろそろ動きたい。
お菓子をくれたりするのは普通に歓迎。
まともに動けないのはこのまま籠の鳥になっちゃう。
「船長、船のところで見てほしい所が」
「今行く」
キリッとした顔をして執務室から退室する。
(あー!やっっと離れた!)
安堵に躯をぐぐっと伸ばす。
アメーバみたいに。
今どき珍しいのか珍しくないのか、可愛いものに目がない人なのかな。
シャンクスと同類だ。
可愛がり方の方向は少し違うけど。
「今のうちに」
窓を開けて飛行を始める。
さよなら、ドレーク船長。
多分落ち込むかもしれないけど、元気に生きて。
船から離れて島まで長い間飛行し、電話する。
ローか、ロシナンテか。
先にローに電話して今まで離れなくて電話出来なかったと述べる。
いい加減帰ってこいと言われるけど、簡単に行ける距離じゃないと思うんですよ。
ということを説明すると無言を返される。
兎に角来いというシンプルな言葉を最後に切れた。
やはり、ローの態度は隔たりがあるのでは。
「今はいかにも無人島しかないし……」
獣道しか見えず、再び飛ぶしか無い。
「ん、聞き間違え?」
微かになにか音が聞こえたが、木が揺れる音だと完結させる。
ドン、という太鼓っぽい、それに類似した音が聞こえる。
はて、ここは人類が住んでいるのか?
音の招待を無視した方が良いのか、探りに行った方が良いのか。
でも、旅ならば探検はつきもの。
気になってきて、突き止めようと足を樹海に踏み入れさせることにした。
さくさく、とスライムの手を硬化させてナイフ状にすると邪魔な草や枝を切り落とす。
もう旅を長いことしていると、こういうのが自然と出来るようになっていったのでお手の物。
ロー達が居る時は基本お留守番なので知られてないと思う。
見せる機会がない。
近付く度に音が大きくなり、他の音も増える。
これは自然ではない。
人工物の奏でるものだ。
いくつもの枝を切り落とし、進むと赤く揺れるものが見えた。
(火?……え、祭壇?)
空間に突如穴が空き、場所が現れる。
どう見ても儀式の最中ですという感じだ。
こういうときに誰かに遭遇するのは厄介だろう。
息を殺して待つ。
なんだかホロンの胸にざわつきをもたらすような造形だ。
同じではないが嫌なことがあったという過去のなにかに共感しているみたい。
(儀式?私の身に近い事があったとか?)
頭に浮かぶものはないが、嫌な感じがする。
近寄りたくないのに、目が離せなくなるのだ。
人が集まっているのも見えて、ざわめきは聞こえない程全員話さないということに行き着く。
生きているのに立っているだけ。
なにかに注目している。
「スバラ様にお越しいただいた」
「「「おー」」」
一人の男が全員に向かって告げると集まる人たちは雄叫びのように応える。
相槌ではなく讃えているような意味合いに聞こえる。
「ニエをここに」
また太鼓がリズム良く鳴らされる。
神輿に担がれる豆粒に見えるなにか。
遠くてそれがなんなのか。
獣のお肉とかでありますよーに。
どーかヤバい儀式じゃないように、と祈る。