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- ナノ -
01
今、壁に挟まっていて動けない。

うにょうにょ動かしても1ミリも変化無し。

誰か通りがかってくれやないかと期待する。

ーーゲシッ

ぷるるん、と衝撃が突き抜けて叫ぶ。

「きゃ、な、なに!?」

左右を見ても誰も居なくて後ろだ。

「面白い遊びだな」

ヒッと息を飲む。

「ロ、ローくん……これは、その、あの」

フルネーム、トラファルガー・ロー。

彼は私の古くからの知り合いっていうか、うーん、友達でもないし、なんの関係が正解なのか分からない。

さっきの衝撃はきっとこの子が私を蹴ったのだ。

いつものことなので手に取るように理解。

ついで、ムギーッと引っ張られる感覚に慌てて唸る。

「い、いたたた!痛いって!」

「スライムのくせに痛いわけ無いだろ」

痛覚を持っていることを知っているのにそういうこと言うんだよ本当。

ひどいなんてもんじゃない。

「手、手を離しっ」

ーーギリリリ

木の板にめり込むマイボディ。

今はとろりとした液体のような個体が見事に挟まっている。

船の床を拭いていたらぶつかっていたのだ。

失敗失敗。

「いだ!いや、あの、痛いんですけどっっ」

力を緩めない男の子に文句を言うが一切離されないままずっと引っ張られて、抜ける頃には伸び切っていた。

私はホロン。

多分この世界とは違う世界から来た。

全く記憶にないけど、気付いたらこの世界に居て、スライムになっていた。

ちゃんと人にもなれるけど、スライムのときが楽なときは使い分けをしている。

「たく、世話がかかる」

宝箱の中で眠るという生存方法をとっていたら色んな所にたらい回しにされて今、ここにいる。

行き着くところが海賊船なのが己の不運の象徴なのかな。

ロー意外は尖ってないから居心地は良い。

問題なのはローなのだ。

「人に戻るから離して下さい」

「このまま運ぶ」

色々言うけど一切認められず個体のままわしずかまれて歩く。

人間として終わってるなこの扱い。

とほほぉ、今までも見た目でペット扱いされていることは多々あった。

スライム化によりスライム扱いされる運命に嘆く。

ローは己の部屋につくとポイッとホロンをベッドへ放り投げ、本を掴んで読み始めた。

放置されてる。

いつものことだけどさ。

でも、暇。

「うんしょ」

人に戻って自らの足で降りる。

大人の、前の世界の私の姿。

「勝手に戻るな」

「え、でも……まだやることが」

「そんなの他のやつにやらせとけ」

ーータッ

無茶苦茶をいう子に黙って部屋を飛び出した。

待てと聞こえた気がするが気にしないでおこう。

なんせ、やることは詰まっている。

部屋をノックして開けるとふとんがこんもりしている。

まだ寝ていたのだ。

「起きてください」

ユサッと揺らす。

もぞりと動いたかと思えばそれはそのまま地面へ激突した。

「いでッ」

ーードシン!

固い床にぶつかっては痛かろう。

怪我の具合を訊ねれば大丈夫とのこと。

「おはようございます。流石に目が覚めましたよね?ーーロシナンテさん」

男性に苦笑したまま、挨拶をする。

「あ、ああ。毎朝悪い」

起こしていることにたいしてか、はたまたなにかしらの事故に合うことか。

「さて、怪我をしたところをローくんに見せに行きましょう」

「エッッ!そ、それは……」

露骨に嫌な顔をする大の大人。

体が大きくても仕草は歯医者を嫌がる子供を彷彿とさせる。

「どうせいつかバレるのに」

今隠しても次に怪我をした時に箇所を見られたら、直ぐに問い詰められてしまう。

その分怒られるというだけ。

今見せたら怒られる事はないと思う。

嫌味を少し言われるだけだ。

多分……ね。

ロシナンテは嫌々と首を振って元気になったと体を振って、急ぎ足で食堂へ行く。

廊下の途中でコケた。

誰にも今のところ見られてはいないけど。

結局一日の終わりに検査されるからな、この人。

実はロシナンテとも出会ってからの付き合いが長い。

あの、宝箱からスライムが出てきた時の顔。

そして、無口と言うか口が聞けぬという疑問。

黙ってて欲しいと言われて、過去に出会った時を思い出し、きっとなにか事情があるのだと見ていたが、まさか、死にかけるとは思わなんだ。

あの時咄嗟に彼を包み込んだ事により、なんとか生きていけた。
そこで少しだけローと離れて再会した時の号泣は凄かった。

そのあと理不尽にスライムボディをもみくちゃにされたのは今でも納得してない。
確かに死んだと思われていたみたいだし、仕方ないと甘んじて受けたものの、コラソンはそんな対応されてなかった。

つまり、私だけ理不尽を受けたのだ。
普通、平等に接するんじゃないのかな。

「起きたんなら、先ずは動いて下さいね」

「あー、わかった」

(脳が起きるまで動かないね)

いつものことなので放置。
仕事はまだあるから彼だけのことに割いている暇はない。

「そうだ!」

「はい?」

思いついたとばかりに手をぽん、と叩く。
タバコを持っていたらうっかり手に持っていただろう想像をしてしまい、背筋がゾッとした。
コラソンだからやってしまうな。

「菓子、またなんか作りてーんだ」

「じゃあ、適当に考えときます」

「頼むわ」

ロシナンテのことを名残でコラソンと呼んでしまうが、致し方なしだ。
ロシナンテの第二の名前みたいになっているし。
ローとて、コラソンコラソン言ってるし。

そして、子供たちに渡す用のお菓子を制作したいとのことなので、レシピを考える。

ロシナンテはやっぱり優しくて、いや、優しすぎる。
それよる不利益すらも彼は受ける。
過去のあの出来事が微かに浮かぶが、もう終わったことだと部屋を出た。

「やっぱりコラさんの所に居たか」

前方に仁王立ちしている男児ことロー。
ずっと出待ちしていたのだろうか。

「あ、うん。起こしてた」

「そんなもん、お前の仕事じゃない」

「でも、必要だから」

「必要ない。コラさんは良い大人だ」

その、いい大人が大やけどしかけたり、骨折しかけたり、日常的に起こるのだが。
本気で言ってるのか、とローの目を見つめているとソウッと逸らされる。

「まァ、コラさんは例外だが」

ほら、ほらほら、やっぱり。
良い大人枠じゃなかったって事だ。
ホロンの視線に負けてしまうほどの駄目な大人である。

「そんなことは後回しだ」

ローはスライムに戻れと我儘を言うので、ローの願いを叶えてしんぜようとぷるぷるボディーに変身した。

すかさずゼラチンみたいな扱いで、わしずかまれる。
相変わらず気遣いの欠片もない。

そのくせ、懐に無理矢理押し込まれる。
嫌われてるってわけじゃないし、扱いの差に悩む。
懐は温かい。
ここは冬の地域らしいし。
なんていったかーーあー、ノースブルーだ。

そういう地名は覚えやすい。
寒いからスライムには酷だ。
まぁ、そこまで温度を敏感に感じ取ってはないから、凍えるという程ではないけど。

それにしても、ローはいつも入れるんだよ。
ホッカイロ代わりなのだと勝手に判断している。

「次はどこへ?」

「タルン島」

「島に着くんだね」

船で周辺をぶらぶらしているから、旅行気分だ。
船で周るのが夢だっだんだよねぇ。
戯言で皆海賊になるんだ、なーんて言ってるけど、いくらローが海賊で下積み下としても、無理。

大人はロシナンテだけで、後は子供だけしかいない。
海賊なんて夢なのだ。
ローとロシナンテだけが飛び抜けて強いってだけで、別にその他の彼らは強いわけでもなし。
そんな偏ったメンバーで海を渡るのは夢物語。

「タルンは珍しく、成金の集う島らしい」

相変わらず言葉が悪くてなによりだ。

ローは楽しげに荒らしにいくぞと言う。
S気質のところを見て、くわばらくわばら。
私以外にも向けられるのは不憫だ。

「ホロン。悪趣味な奴らが集まってるから気をつけて行動しろ」

「う、うん……」

優しいときもあってキョドル。

「ローくん、私が捕まったらどうするのかな」

聞こえない程の声で呟いた。
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