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- ナノ -
10
ロシナンテと言葉を交わしつつも歩けるルートを速やかに移動していた。
彼の悪魔の実による音界。
無の状態により、誰かに見つかることなく脱出する。
こちらとしてはいつ囚われたのか全く分からたない。

それに人のまま囚われたから、人のまま眼が覚めたというわけだ。
なにが目的だったのかな。
私なんてどこにでもいる娘だ。
記憶喪失だし、得られる情報なんてものもないだろう。

やはり、首を傾げたくなる。
己ほど情報がない人間が居るのかというもの。

「よし、ここまでこればいーな」

ロシナンテは左右確認をし、養われてきたものを駆使して外へ出た。
そういうのは苦手なので大変頼りになる。

「あの、ロシナンテさん、さっきコケてたけど捻らなかった?」

変なコケ方をしていたので心配になる。
いつものことだけど。
男は冷や汗を流して気丈に振る舞う。
勿論ぴったり隣に居るので汗の具合が良く分かる。

申し訳なさとロシナンテの貧弱さにこの先、やはり海賊行為をさせるのが不安になる。
私と同じくアクシデントの場に出ないように気をつけてもらわねば。

助けられた手前、言いにくいけど。
彼の為にも言わないとね。

「お、ロー達も終わらせたようだ。へへ。やったな」

どこからか歓声が聞こえる。
いつの間にか陰謀イベントに巻き込まれていたけど、無事に終わったようだ。

私もホッとして腰が抜ける。

「おっ、と!大丈夫か!?」

「だ。だい、」

なんとか答えようとしたが、意識が薄れていく。
息も浅くなる。
気を失う、と他人事のような気持ちを最後に暗転。




ーーチャプ

ーーパタ

水音がし、意識が浮上。

薄く瞼を上げれば白があった。

「ーーっ」

なにか言おうとした時、掠れた音が横から聞こえた。

「ホロン」

覗き込むはブラウンゴールド。
真剣な揺らぎが見えて、思わず言葉を失う。
 
「おれが誰か分かるな」

そこは医者らしく、分かるか?というところだと思うんだが。
そうじゃないと許さないみたいな質問。
流石はローだ。

「さっさと言え」

「ローくん」

「よし」

一つ満足そうに頷く。
てきぱきと触診したり質問され答えていけばローは足を組む。

「なにも覚えてないのか。おれはお前を攫ったやつから情報を既に聞き出している」

ドヤ顔でマウントを取る相手に慌てる。
なにをさせられるのかという震えまでくる。

(夢に出てきたカジノのやつ、正夢!?)

そんな馬鹿な。
狼狽するのに時間差がおき、冷や汗をたらりと背中にかく。

しかし、どうやらカジノの件に関してなにも知らないらしく、記憶が混濁しているんだなと冷静に判断される。

既に事件も終わっているのにふわふわした気持ちなのは、追いつけてないからなのだろうな。
知らぬ間に渦中に居たわけだし。
実際なにをされたのか分からなくて。

「私はなにをされたの?」

「奴等曰く、記憶の抽出だとよ」

(抽出。記憶目当て)

なんの記憶を目的にしていたのかな。
無いというのに。

「どうやら異世界人というだけで、狙ったんだ」

「異世界……私、やっぱり」

「ああ。スライムになるという特異体質だしな。確定だろ」

きっぱりと断定される。
分かっていたので、そこは別に気にしてない。
問題は異世界から来たから、という点。

異世界の文明とか、目当てだったのかな。
それとも、異世界を渡る方法か。
色々ありすぎて眠たくなってきた。
うとうとしているとローがさらりと頭を撫でた。

その仕草に内心驚く。

「珍しい、ね……ローくんが撫で撫でしてくれるなんて」

「今のお前には一番効く処方箋だ」

「うん。嬉しい」

布団を深く被せてくれるローに瞼を再び落とす。
おやすみ、と言えたかは分からない。



***



「で、どうなんだ」

「焦るな」

男達が深刻な空気に声を低くして顔を近付け合う。
人目を憚っているわけではないが、知られたくはないという気持ちと、早く知りたいという気持ちが流行っているのだ。

「早くしろ」

「待て、まだ焦るなって」

「見せろ」

触発しそうな雰囲気に一つの声が落とされる。

「もう一冊買えば良いのに」

不憫な声音で突き刺す。
それに一部の男等はウッと針を刺された声を発する。

「勿体ねェだろォ」

「待ちきれないのに、ケチるのはどうなの」

それとこれのは別なんだ、という意見も来る。

「だーっ、さっさとしろ!」

男の一人が本を取り上げてヒモを解く。
はらりと地面に落ちるヒモに買ってきた男が叫ぶ。

「雑に扱うな」

「シワになったら困る」

本にあるタイトルは【春は麗らか、グラビアNo.17】というもの。
さっきから彼らが言っているのはグラビア冊子のことだ。
回し読みするのが昔からの習慣。

グラビアに真剣に読もうとする心理は女には一生分からないと思う。
女の一人である女全員も騒ぐ男達を横目に椅子に座っている。

「船長だって気になりますよね」

船員たちが眼を付けたのはコーヒーを啜っていた船長、ロー。
男は眉根を片方上げて思案する。

「本より実物だな」

「や、そういうのではなく……」

天然なところを出されてしまい、船員達も言葉に窮する。
可哀想なことになった。

それに、こう言ってはなんだが、ローにそういう話題はミスである。
船員たちが思っているより、ローの興味はもう少し男の子っぽいところに位置している。

「ふふ。ふふ、あー、駄目、笑っちゃう」

「?」

トラファルガー・ローの不思議そうな顔で更に笑みが深くなる。
世間じゃハートの海賊団やローの話題が出始めていた。
それと同時にロシナンテの露出の危険が増えるので、どうしようと悩む一方。

「そろそろ笑うな」

ローが頬をギギっと引っ張る。
痛い、痛いよ。
頬を取り返して労る。

「船長の好みはどんな女なんだ」

そういうボーイズトークは女子を避けて欲しい。
共同生活故に難しいんだけどね。
でもね、ほら、やっぱり聞きたくはないよ。

ローは少し考えている。
え、これ私も聞かないと駄目なの?
普通に知りたくない。
知らないままで居たい。
スゥ、と立ち上がり何食わぬ顔で廊下に出る。

はー、危なかった。
耳が汚染するところだったよ。

なにをしようかと船を彷徨いていると電話が鳴り、ポポラという異世界の人からのもの。
近くの島まで来られるかとのことなので、あらかじめポポラからもらっていたコンパスを使ってスライムになり、ハングライダーみたいに空高く飛ぶ。
ロシナンテに一応行ってくることを伝えてあるので、ローに怒られることはないと、祈っている。

ポポラに言われた場所は花が一面に咲く、自然豊かな所だった。
良かった、変な島に来いって言われなくて。
最初に会った時は生贄にされていたから……さ。

気まずくなるのはもう嫌だ。
というわけで、お花畑の真ん中にちょこんとすわる。
花粉症だったら大惨事だけど、お陰様で丈夫なんです。
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